条件つきホント

「生前贈与は年間110万円
まで非課税」は本当?

掲載日:2026年10月5日
分野:相続・贈与

「生前贈与は、毎年110万円まで非課税。だから毎年こつこつ渡せば、税金なしで財産を子や孫に移せる。」

動画やSNSで、こんなアドバイスを見かけたことはありませんか?

「110万円」という数字は、たしかに贈与税のルールに出てきます。でも「毎年やれば非課税」の部分だけを信じてしまうと、相続のときに思わぬ税金が発生します。

この噂を、法令の原文と国税庁の公式情報まで遡って確かめました。

税金の言葉、先に4つだけ

この記事に出てくる言葉を、先にやさしく説明します。

  • 贈与税=個人から財産をもらったときに、もらった人が払う税金です。
  • 基礎控除=税金を計算するとき、課税の対象から差し引ける枠のことです。贈与税では、もらった人1人につき1年間で110万円です。
  • 名義預金=口座の名義は家族でも、お金を出して管理しているのは親本人、という預金のことです。
  • 生前贈与加算=亡くなる前の一定期間内の贈与を、相続財産に戻して相続税をかける仕組みです。

結論

  1. 贈与税には、もらった人1人につき1年間で110万円を差し引く仕組み(基礎控除)があります。「110万円」は本物の数字です。[2][3]
  2. ただし「毎年やれば完全に非課税」は誤りです。贈与税がかからないのは、贈与が成立していること(名義預金でないこと)と、前もって「毎年あげる」と約束していないことが前提です。そのうえで、贈与した人が加算期間内(今は3年、将来は最大7年)に亡くなり、贈与を受けた人が相続や遺贈で財産をもらうと、その贈与は原則として相続税の計算に戻ります。[5][6][9][10]
  3. 亡くなる前の贈与を相続税に戻す期間(生前贈与加算)は、令和6年以後の贈与について、相続が始まる時期に応じて令和9年から段階的に広がり、令和13年1月1日以後の相続で最大7年になります。相続税がかかりそうな家庭は、期間を逆算して早めに動きましょう。[8][9]
  4. なお、相続税には基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)があり、生前贈与を足したあとの遺産の合計がこの範囲内なら、相続税はかかりません[17]。

判定は「条件つきホント」。基礎控除は本物の制度ですが、条件が1つでも欠けると、「非課税」は成り立ちません。

「110万円」の根拠は本物

まず「110万円」の根拠を見てみましょう。贈与税の基礎控除を定めた相続税法21条の5の条文そのものは、こうなっています(e-Gov法令検索)。

贈与税については、課税価格から六十万円を控除する。[1]

60万円です。今の「110万円」は、別の法律である租税特別措置法の特例で決められています(e-Gov法令検索)。

平成十三年一月一日以後に贈与により財産を取得した者に係る贈与税については、相続税法第二十一条の五の規定にかかわらず、課税価格から百十万円を控除する。[2]

平成13年(2001年)以後の贈与について、控除額を110万円へ引き上げる規定です。国税庁のタックスアンサーNo.4408も、同じ内容を紹介しています。

贈与税の計算は、まず、その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与によりもらった財産の価額を合計します。続いて、その合計額から基礎控除額110万円を差し引きます。[3]

つまり、暦年課税では「1年間にもらった合計が110万円以下なら贈与税はかからない」のが原則です。ここまでは噂のとおりです。

ただし数え方に、間違えやすい点があります。110万円は、もらった人ごとの枠です。タックスアンサーNo.4410に説明があります。

この場合の暦年課税に係る基礎控除額は、贈与をした人ごとではなく、贈与を受けた人ごとに1年間で110万円となります。[4]

たとえば同じ年に、父から110万円、祖父から110万円をもらったとします。合計は220万円です。110万円を超える分に贈与税がかかります。「あげる人ごとに110万円ずつ」ではありません。

落とし穴① そもそも贈与が成立していない

基礎控除を使うには、大前提として贈与が法律上成立している必要があります。贈与は契約です(民法549条、e-Gov法令検索)。

贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。[5]

あげる意思と、もらう意思の両方があって、初めて成立します。

ここで注意したいのが「名義預金」です。親が子ども名義の口座を作り、毎年お金を積み立てるケースが典型です。子どもは口座のことを知らず、通帳もカードも親が管理しています。この場合、もらう側の意思が確認できません。贈与が成立していないと扱われます。名義預金は、贈与の成立が問われる典型的な場面です。

国税庁のパンフレット「相続税の申告のしかた」は、家族名義の預金について、こう答えています。

名義にかかわらず、被相続人が取得等のための資金を拠出していたことなどから被相続人の財産と認められるものは相続税の課税対象となります。[6]

国税庁が公表している「相続税の申告書作成時の誤りやすい事例集」にも、典型例が載っています。父の死亡後、息子名義の定期預金が見つかった例です。

この定期預金は、父の収入から預け入れたものであり、父が管理・運用をしていました。また、私は過去にこの定期預金について、贈与を受けたことはありません。[7]

(事例の抜粋)

国税庁は、この定期預金が名義にかかわらず父(被相続人=亡くなった人)の財産と認められるときは、相続税の課税対象になるとしています[7]。毎年110万円ずつ渡したつもりでも、同じ実態なら、相続のときに全額が課税対象になります。

落とし穴② 亡くなる前の贈与は相続税に戻る

贈与がきちんと成立していても、安心はできません。亡くなる前の一定期間の暦年課税の贈与は、原則として相続財産に戻されます。生前贈与加算と呼ばれる仕組みです。条文を見てみましょう(相続税法19条、e-Gov法令検索)。

相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続の開始前七年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合においては[8]

(抜粋)

条文の冒頭に「七年以内」とあります。これは令和5年度の税制改正で3年から延びたもので[9]、令和6年1月1日以後の贈与から適用されます。7年分が適用されるのは、令和13年1月1日以後の相続からです。期間は段階的に広がります。タックスアンサーNo.4161に説明があります。

令和6年1月1日以後の暦年課税に係る贈与により取得した財産については、その加算対象期間が相続開始前7年以内となります。[9]

死亡日に応じた加算対象期間(相続財産に戻される贈与の日の範囲)は、次のとおりです[9]。

相続が始まった日加算される贈与の期間
令和8年12月31日まで相続開始前3年以内
令和9年1月1日~令和12年12月31日令和6年1月1日から死亡の日まで
令和13年1月1日~相続開始前7年以内

令和8年(2026年)の時点では、加算期間は3年以内のままです。令和9年(2027年)に始まる相続から段階的に広がり、令和13年(2031年)に始まる相続で7年以内になります。

加算期間の中では、110万円以下の贈与も戻されます。

加算対象期間内に贈与されたものであれば贈与税がかかったかどうかに関係なく加算します。したがって、基礎控除額110万円以下の贈与財産や死亡した年に贈与されている財産の価額も加算することになります。[9]

「贈与税がかからなかった」は「相続税もかからない」にはなりません。加算期間内の分は、相続税の計算に戻ります。

暦年課税の贈与が加算の対象になるのは、相続や遺贈(遺言で財産をもらうこと)で財産をもらった人です[9]。相続時精算課税を選んだ贈与は、相続人でなくても相続のときに加算されます[9]。

生前に暦年課税の贈与だけをもらっていた孫は、相続人でなければ原則として加算の対象になりません。遺言で財産をもらう場合は、加算の対象になります。

遺言で財産をもらった孫には、相続税額の2割加算もかかります。国税庁のパンフレットに、こう書かれています。

相続、遺贈や相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得した人が、被相続人の一親等の血族(代襲して相続人となった直系卑属を含みます。)及び配偶者以外の人である場合には、その人の相続税額にその相続税額の2割に相当する金額が加算されます。[6]

少し堅い文章なので訳します。孫のように、一親等の血族でも配偶者でもない人が財産をもらうと、その人の相続税が2割重くなります。ただし、親が先に亡くなったため代襲して相続人になった孫は、一親等の血族として扱われ、2割加算されません。

なお、死亡前3年より古い贈与(4~7年目の分)には配慮があります。相続税法19条の同じ規定です。

加算対象贈与財産のうち当該相続の開始前三年以内に取得した財産以外の財産にあつては、当該財産の価額の合計額から百万円を控除した残額[8]

(抜粋)

国税庁の説明でも、同じ内容が確認できます。

相続開始の日が令和9年1月2日以後の場合には、加算対象期間内に取得した財産のうち相続開始前3年以内に取得した財産以外の財産については、その財産の贈与時の価額の合計額から総額100万円までは相続税の課税価格に加算されません。[9]

延長された4年分の贈与は、合計100万円までなら相続税に戻されません。この100万円控除は、令和9年1月2日以後の相続から始まります。4~7年前の贈与が4年分そろうのは、加算期間が7年になる令和13年1月1日以後の相続です。そのとき、毎年110万円ずつ贈与した440万円のうち100万円が引かれ、340万円が加算されます。死亡前3年以内の分は、別に全額が加算されます。

落とし穴③ 「毎年あげる」と約束すると

「毎年110万円ずつ10年間あげる」と最初から約束すると、別の課税になります。「定期金に関する権利」の贈与と扱われ、約束をした年に、その権利の価額に贈与税がかかり得ます。タックスアンサーNo.4402の質疑応答です。

親から毎年100万円ずつ10年間にわたって贈与を受ける場合には、各年の贈与財産の価額の合計額が110万円の基礎控除額以下ですので、贈与税がかからないことになりますか。[10]

国税庁の答えの後半は、次のとおりです。

ただし、毎年100万円ずつ10年間にわたって贈与を受けることが、贈与者との間で契約(約束)されている場合には、契約(約束)をした年に、定期金給付契約に基づく定期金に関する権利(10年間にわたり100万円ずつの給付を受ける契約に係る権利)の贈与を受けたものとして贈与税がかかります。[10]

約束をした時点で「10年間にわたり毎年100万円ずつもらう権利」をまとめて受け取った、とみます(国税庁の例の金額です。110万円ずつの約束でも、同じ扱いです)。その権利に贈与税を計算します。権利の価額は、相続税法24条が定める方法で評価します[11]。

「毎年あげる」こと自体をあきらめる必要はありません。同じタックスアンサーは、こうも述べています。

定期金給付契約に基づくものではなく、毎年贈与契約を結び、それに基づき毎年贈与が行われ、各年の贈与財産の価額の合計額が110万円以下であれば、暦年課税に係る基礎控除額または相続時精算課税に係る基礎控除額以下であるため、贈与税がかかりませんので申告は必要ありません。[10]

その年ごとに新しく契約を結んで贈与すれば、毎年の110万円の控除が使えます。ポイントは、総額や年数を前もって約束しないことです。

AさんとBさんの違い

架空の2人で比べます。どちらも毎年110万円を10年間、合計1,100万円を渡します。

人と条件結果
Aさん:毎年贈与契約書を結び、子の口座へ110万円を振り込む。通帳とカードは子が管理し、実際に使っている贈与は成立。贈与税はかからず、相続では加算期間内の分だけが相続税の計算に戻る
Bさん:孫名義の通帳に毎年110万円を積み立てる。孫は知らず、通帳の管理は祖父がしていた名義預金とされれば贈与は不成立。1,100万円全額が祖父の相続財産として相続税の課税対象になる

Aさんの贈与は成立しています。10年間で贈与税はかかりませんでした。相続では、死亡前の加算期間内(今は3年、将来は最大7年)の分だけが相続税の計算に戻ります。それより前の年分は、戻されません。

Bさんの場合、贈与は成立していません。同じ1,100万円が全額、祖父の財産として扱われます。贈与したつもりでも、贈与としては認められず、相続で全額が相続税の課税対象になります。

金額も年数も同じなのに、やり方次第で結果はこれだけ変わります。

こうすればいい

生前贈与をするなら、次の点をチェックしてください。

  • 毎年、贈与契約書を結ぶ。日付入りの契約書が、あげる・もらう両方の意思の証拠として残ります。
  • お金の痕跡を残す。あげる人の口座からもらう人の口座へ振り込みます。現金の手渡しは避けましょう。
  • もらった人が管理して使う。通帳・カード・印鑑はもらった本人が持ちます。実際に使われたかも見られます。
  • 加算期間を逆算する。相続税がかかりそうな家庭は、元気なうちから早めに贈与します。令和9年からは加算が段階的に最大7年へ広がります。
  • 総額を先に約束しない。その年ごとに決めてその年ごとにあげれば、「毎年あげる」と約束した贈与(定期金給付契約)とは扱われにくくなります。

贈与税の申告が必要になる場合

なお、贈与税の申告が必要になる場合もあります。1年間にもらった合計が110万円を超えると、超えた分に贈与税がかかります。この場合は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、申告と納税が必要です[16]。

相続時精算課税という別の方法

まとまった額を一度に渡す方法として、相続時精算課税という制度もあります。贈与のときに広い枠で受け取り、相続のときに相続税で精算する方法です。原則として、贈与した年の1月1日に60歳以上の父母・祖父母から、贈与を受けた年の1月1日に18歳以上の子(推定相続人)や孫への贈与で選べます[12]。この制度にも、令和6年から年間110万円の基礎控除が新設されました(租税特別措置法70条の3の2、e-Gov法令検索)。

同法第二十一条の十一の二第一項の規定にかかわらず、贈与税の課税価格から百十万円を控除する。[13]

(抜粋。「同法」は相続税法)

選ぶには、最初の贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに、税務署へ「相続時精算課税選択届出書」を出す必要があります。2,500万円の特別控除は、贈与税の期限内申告書を出した場合に限って使えます[12]。

贈与のときの計算はこうです。相続時精算課税は、贈与者ごとに累計2,500万円までを特別控除として差し引けます。超えた分の贈与税は一律20%です[12]。この110万円は、贈与を受けた人ごとの枠です。特定贈与者が2人以上いるときは、110万円を、贈与を受けた財産の価額の割合で特定贈与者ごとにあん分します[4]。この制度でもらった財産は、相続のときに相続財産へ加算して精算します。令和6年1月1日以後の贈与分は、もらった年ごとに110万円の基礎控除を引いた残額が加算されます[12]。

注意点もあります。一度選ぶと、後戻りはできません。

一度選択すると、その選択に係る贈与者(「特定贈与者」といいます。)から贈与を受ける財産(「相続時精算課税適用財産」といいます。)については、その選択をした年分以降すべてこの制度が適用され、「暦年課税(注)」へ変更することはできません。[12]

原文の「(注)」は、暦年課税の説明を指します。

暦年課税(ふつうの、毎年区切りで贈与税を計算する方法)と相続時精算課税のどちらが有利かは、家庭の状況次第です。迷ったら、税務署の相談窓口や税理士に相談しましょう。

生活費・教育費は別の仕組み

子や孫の生活や教育のため、必要な都度渡すお金には、110万円の控除とは別の仕組みがあります(相続税法21条の3、e-Gov法令検索)。

扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの[14]

(抜粋)

こうした財産の価額は、贈与税の課税価格に算入されません[14]。扶養義務者(夫婦・親子・兄弟姉妹など)の間で渡す生活費や学費は、通常必要と認められる範囲なら、そもそも贈与税の対象外です。

ただし、これは「必要になったときに都度渡す」お金に限られます。タックスアンサーNo.4405に、こう書かれています。

したがって、生活費や教育費の名目で贈与を受けた場合であっても、それを預金したり株式や不動産などの買入資金に充てている場合には贈与税がかかることになります。[15]

まとめて渡して預金や不動産などの買入資金に回すと、贈与税がかかります。なお、通常必要と認められる生活費・教育費は贈与税の課税価格に算入されず、生前贈与加算の対象にもなりません[9][14]。

まとめ

「生前贈与は年間110万円まで非課税」は、本物の制度です。加算期間より前に渡した分は、将来の相続財産を贈与税なしで減らせます。ただし「渡せばそれで終わり」ではありません。

贈与税がかからないのは、贈与が成立していること(名義預金でないこと)と、「毎年あげる」と前もって約束していないことが前提です。そのうえで、贈与から亡くなるまでが加算期間(今は3年、令和13年以後の相続で最大7年)より長ければ、その贈与は相続税の計算に戻りません。名義預金は、贈与として認められず、相続財産とされます。始める前に、一度やり方を公式情報で確かめてください。


出典

※ 本文は2026年10月5日時点の法令・公式情報に基づきます。出典は法令(e-Gov)と国税庁の公式ページ・刊行物のみを使用しています。公開後に訂正が生じた場合は、訂正記録をこの記事の末尾に掲載します(訂正ポリシー)。

本記事は掲載日時点の法令・公式情報に基づく一般的な解説です。個別の事案については、お近くの税務署または税理士にご相談ください。