半分ホント

「税務調査はことわれば
帰ってくれる」は本当?

掲載日:2026年10月7日
分野:税務調査

「税務調査は、ことわれば帰ってくれる」。雑談やSNSで、こんな話を耳にしたことはありませんか?

半分だけ正しい噂です。調査官の権限と罰則の存在を知らずにことわると、あとで困るおそれがあります。この噂を、国税通則法の原文と国税庁の公式情報まで遡って確かめました。

税金の言葉、先に4つだけ

この記事に出てくる言葉を、先にやさしく説明します。

  • 質問検査権=税務調査官が、質問したり帳簿書類を調べたりできる法律上の権限です。
  • 事前通知=税務署が、調査の前に日時や目的を知らせる連絡です。
  • 税務代理人=税理士等で、調査の窓口になる人です。
  • 正当な理由=ことわる事情として認められる、相当な理由のことです。

結論

    1. 実地の調査は、原則として事前通知から始まります。合理的な理由を付して日時や場所の変更を求めれば、当局はこれについて協議するよう努めるものとされています[3]。 2. ただし、正当な理由がないのにことわると、罰則の対象になり得ます。法律では1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金とされています[4]。 3. 調査そのものは、不服申立ての対象になりません。日程の調整を求めるとともに、税理士に同席してもらうのが、現実的な対応です[6]。

判定は「半分ホント」。調査官がその場で押し切る仕組みにはなっていない、という意味では正しいです。でも「ことわれば帰ってくれる」を「調査を断る権利」と読むと、間違いになります。

調査官には法律上の権限がある

まず、調査官が立っている土台を確認します。国税通則法74条の2は、調査官に質問検査権という権限を与えています。原文を見てみましょう。

国税庁、国税局若しくは税務署(…)又は税関の当該職員(…)は、所得税、法人税、地方法人税又は消費税に関する調査について必要があるときは、次の各号に掲げる調査の区分に応じ、当該各号に定める者に質問し、その者の事業に関する帳簿書類その他の物件(…)を検査し、又は当該物件(…)の提示若しくは提出を求めることができる。[1]

(国税通則法第74条の2第1項・柱書・抜粋。条文全文は出典[1])

少し堅い文章なので訳すと、こうなります。所得税や法人税などの調査で必要があるとき、調査官は関係者に質問をし、帳簿書類を検査できます。さらに、その提示や提出を求めることもできます。

注目すべきは「ことができる」という書き方です。これは調査官に与えられた法律上の権限です。その場の話術で外せるものではありません。

もう一つ、重要な一文があります。

第七十四条の二から第七十四条の七まで(当該職員の質問検査権等)又は前条の規定による当該職員又は国税局長の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。[2]

(国税通則法第74条の8・全文)

調査の権限は、犯罪捜査のために認められたものではありません。法律が明確に、そう定めています。調査は犯罪捜査とは別の手続きです。

ただし、もう一つ、別の手続きがあることは押さえておいてください。それが査察(犯則調査)です。悪質な脱税の疑い(犯則事件)を調べるための手続きで、裁判官があらかじめ発する許可状により、臨検、捜索又は差押えを行うことができるとされています[8][9]。「ことわって帰ってもらう」も「日程を協議してもらう」も、ここまでに見た調査の話です。査察は、その枠の外の話になります。

実地の調査は原則として事前通知から始まる

では、実地の調査はどう始まるのでしょうか。国税通則法74条の9は、実地の調査を行う場合に、原則として調査開始の日時や場所、目的、対象税目・期間、帳簿書類を事前に通知する決まりです[3]。

ただし、ここで相談できるのは日程の話です。調査そのものの妥当性ではありません。この区別が、この噂の核心です。

合理的な理由を付して日時や場所の変更を求めれば、当局はこれについて協議するよう努めるものとされています。

税務署長等は、前項の規定による通知を受けた納税義務者から合理的な理由を付して同項第一号又は第二号に掲げる事項について変更するよう求めがあつた場合には、当該事項について協議するよう努めるものとする。[3]

(国税通則法第74条の9第2項・全文)

「いきなり来られた」という心配には、法律が先に手立てを用意しています。とはいえ、変更を協議するのは当局の「努め」であって、納税者に強い権利があるわけではないことも、押さえておいてください。

落とし穴① 正当な理由なくことわると罰則の対象になり得る

では、調査そのものをことわった人は、どうなるのでしょうか。国税通則法128条は、罰則を置いています。

次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。[4]

(国税通則法第128条・柱書)

対象となる行為の一つは、このとおりです。

第七十四条の二から第七十四条の六まで又は第七十四条の七の二(特定事業者等への報告の求め)の規定による物件の提示若しくは提出又は報告の要求に対し、正当な理由がなくこれに応じず、又は偽りの記載若しくは記録をした帳簿書類その他の物件(その写しを含む。)を提示し、若しくは提出し、若しくは偽りの報告をした者[4]

(国税通則法第128条第3号・全文)

訳すと、こうなります。法律の規定による帳簿書類の提示や提出の要求に応じないこと。正当な理由がなければ、罰則の対象になります。質問への答弁をしない場合や、検査を拒む場合も罰則の対象になる規定があります(同条第2号)。なお、2号の条文には「正当な理由」の文言がありません。

つまり、正当な理由がないのにことわることは、罰則の対象になり得る行為です。ここまでは法律の世界の話です。

一方で、税務署の側には基本姿勢が定められています。国税庁の事務運営指針(公表文書)「調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について」です。

調査がその公益的必要性と納税者の私的利益との衡量において社会通念上相当と認められる範囲内で、納税者の理解と協力を得て行うものであることを十分認識した上で、法令に定められた調査手続を遵守し、適正かつ公平な課税の実現を図るよう努める。[5]

(抜粋)

国税庁の公式の説明でも、同じ立場が確認できます。

帳簿書類等の提示・提出をお願いしたことに対し、正当な理由がないのに提示・提出を拒んだり、虚偽の記載をした帳簿書類等を提示・提出した場合には、罰則(1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)が科されることがありますが、税務当局としては、罰則があることをもって強権的に権限を行使することは考えておらず、帳簿書類等の提示・提出をお願いする際には、提示・提出が必要とされる趣旨を説明し、納税者の方の理解と協力の下、その承諾を得て行うこととしています。[6]

少し堅い文章なので訳すと、こうなります。ことわれば罰則の対象になり得るけれども、当局は強権的に調べるつもりはありません。趣旨を説明した上で、納税者の承諾を得て進める立場です。

ここまでが、噂の正しい部分に近い話です。では、どんな事情なら「正当な理由」になり得るのでしょうか。

どのような場合が正当な理由に該当するかについては、個々の事案に即して具体的に判断する必要がありますし、最終的には裁判所が判断することとなりますから、確定的なことはお答えできませんが、例えば、提示・提出を求めた帳簿書類等が、災害等により滅失・毀損するなどして、直ちに提示・提出することが物理的に困難であるような場合などがこれに該当するものと考えられます。[6]

帳簿書類が災害で滅失・毀損した、という事情の例です。どうにもできない事情なら正当な理由になり得る、と説明されています。一方で「忙しいから帰ってほしい」のような事情が正当な理由に当たるとは考えにくい、というのが本記事の見立てです。正当な理由に当たるかの判断は事案ごとに行い、最終的には裁判所が決めるとされています。

もう一つ、押さえておきたい点があります。税務署が更正又は決定をする場面では、帳簿に基づいて所得の金額を計算することができない場合には、収入や支出の状況、財産又は債務の増減、生産量や販売量、従業員数などの事業の規模から、所得の金額を推計することができるとされています(所得税の場合。青色申告書を提出している年分の不動産所得・事業所得・山林所得は除きます)[10]。「帰ってもらえた」で終わったあと、帳簿に基づかない数字で課税される道が、法律上残されているわけです。

落とし穴② 調査が来るのは「問題のある人」だけではない

「自分は何もしていないから、ことわっても大丈夫」という計算はどうでしょう。まず、調査というものの定義を、国税庁はこのように説明しています。

調査は、特定の納税者の方の課税標準等又は税額等を認定する目的で、質問検査等を行い、申告内容を確認するものですが、税務当局では、税務調査のほかに、行政指導の一環として、例えば、提出された申告書に計算誤り、転記誤り、記載漏れ及び法令の適用誤り等の誤りがあるのではないかと思われる場合に、納税者の方に対して自発的な見直しを要請した上で、必要に応じて修正申告書の自発的な提出を要請する場合があります。[6]

調査は、申告内容を確認する手続きです。調査が来た時点では、結果はまだ決まっていません。

なお、引用の中に出てくる「行政指導」は、調査とは別のものです。調査は、質問検査権という法律上の権限と、正当な理由なく応じなければ罰則の対象になり得るという裏付けを持って行われます。行政指導は、申告の誤りを納税者の方が自発的に見直すよう促すもので、罰則で強制する仕組みではありません。「指導」と「調査」は、言葉は似ていますが中身が違います。

また、調査の対象選びの理由は、説明されないことになっています。

法令上、調査の目的(例えば、提出された申告書の記載内容を確認するため)については事前通知すべきこととされていますが、実地の調査を行う理由については、法令上事前通知すべき事項とはされていませんので、これを説明することはありません。[6]

ふつうの調査は、事前通知から始まります。

実地の調査を行う場合には、原則として、調査の対象となる納税者の方に対して、調査開始前に相当の時間的余裕を置いて、電話等により、実地の調査を行う旨、調査を開始する日時・場所や調査の対象となる税目・課税期間、調査の目的などを通知します。[6]

ただし、事前通知をしないで実地の調査を行う例外も、法律上は認められています。違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等や税額等の把握を困難にするおそれがある場合などには、事前通知をしないで調査を行うことができるとされています[7]。FAQも、申告内容・過去の調査結果・事業内容などによっては「事前通知をしないこともある」と説明しています[6]。さらに、反面調査という手続があります。

税務当局では、取引先など納税者の方以外の方に対する調査を実施しなければ、納税者の方の申告内容に関する正確な事実の把握が困難と認められる場合には、その取引先等に対し、いわゆる反面調査を実施することがあります。[6]

自分に直接の事情がなくても、取引先に反面調査が入ることはあります。自分は何もしていなくても、取引先経由で自分の申告内容の確認につながり得ます。調査が来るのは「問題のある人」だけとは限りません。だとすると、「潔白だからことわっても帰れる」という計算は、調査の仕組みと噛み合いません。調査は、潔白を証明する場ではありません。法律で決まった手続きの問題です。

こうすればいい

調査が来たときの取り方を、表にまとめます。

状況取り方
日時に都合が悪い[6]合理的な理由を付けて、変更を申し出る(入院や葬儀は例示されている)
調査に不安がある[6]事前の同意と税務代理権限証書の提出を前提に、税理士に税務代理人を依頼する。事前通知も税理士へ一括できる[6]
帳簿を出せない事情がある[6]正当な理由になり得るか、税理士に早めに相談する
結果の説明に納得できない[6]修正申告の勧奨に応じるかは任意。応じると更正の請求のみで不服申立てはできず、応じなければ更正処分に対して再調査の請求・審査請求ができる[6][12]

日程の変更は、このとおり公式に案内されています。

また、事前通知後においても、通知した日時について、例えば、一時的な入院、親族の葬儀、業務上やむを得ない事情が生じた場合等には、申し出ていただければ変更を協議します。[6]

ことわるのではなく、調整する、が法律と公式の説明が用意している形です。税理士を立てる場合は、事前通知も税理士に一括できます。

平成26年7月1日以後に行う事前通知については、納税者の方の事前の同意がある場合には、税務代理権限証書を提出している税理士等(以下「税務代理人」といいます。)に行えば足りることとされました。[6]

調査の結果の説明に納得できないときは、救済の手続きもあります。修正申告の勧奨の応じ方について、国税庁は次のように説明しています。

修正申告の勧奨に応じるかどうかは、あくまでも納税者の方の任意の判断であり、修正申告の勧奨に応じていただけない場合には、調査結果に基づき更正等の処分を行うこととなりますが、修正申告の勧奨に応じなかったからといって、修正申告に応じた場合と比較して不利な取扱いを受けることは基本的にはありません。[6]

ただし、修正申告という方法を選んだ場合、その後の救済手段は限られます。

なお、修正申告を行った場合には、更正の請求をすることはできますが、不服申立てをすることはできませんので、こうした点をご理解いただいた上で修正申告を行ってください。[6]

つまり、修正申告に応じると「更正の請求」という手段は使えますが、「再調査の請求」や「審査請求」といった不服申立てはできません。修正申告に応じなければ更正処分が行われ、その処分に対して再調査の請求・審査請求の道が開かれます[12]。どの道を選ぶかは、納税者の任意の判断です。

また、調査そのものには不服申立てができません。

また、調査を行うこと自体は不服申立てを行うことのできる処分には当たりませんから、仮に事前通知事項以外の事項を調査することの必要性についてご納得いただけない場合でも、不服申立てを行うことはできません。[6]

納得できない部分は、調査でその場で争うものではありません。調査後の手続きで争うのが通常の順路です。

まとめ

「税務調査はことわれば帰ってくれる」は、半分だけ本当です。調査は強制捜査ではありません。納税者の理解と協力を得て進める仕組みです。合理的な理由を付して変更を求めれば、当局は協議するよう努めることとされています。ここまでは正しいです。

ただし、正当な理由がないのにことわると、罰則の対象になり得ます。調査が来るのは「問題のある人」だけではありません。申告内容の確認のために、問題があるかどうかに関係なく来ることがあります。

噂は断った後の話に触れていないため、そのまま信じると危険です。ことわる前にできることは、日程の調整と税理士への相談です。どちらも、法律と公式の説明が用意している正攻法です。


出典

※ 本文は2026年10月7日時点の法令・公式情報に基づきます。出典は法令(e-Gov)と国税庁の公式ページのみを使用しています。公開後に訂正が生じた場合は、訂正記録をこの記事の末尾に掲載します(訂正ポリシー)。

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