「定率法は法人だけ」は本当?
「減価償却の定率法は、法人だけが使える。個人事業主は定額法しか選べない、らしい」。開業した年、こんな話を耳にしたことはありませんか?
税金の言葉、先に5つだけ
この記事に出てくる言葉を、先にやさしく説明します。
- 減価償却=機械や建物などの取得価額を、使える年数に分けて経費にしていく手続です。
- 法定償却方法=何も届け出なかったときに使う方法として、法令で決まっている方法です。
- 定額法=毎年同じ額を経費にする計算方法です。
- 定率法=初めの年ほど多く、年々少なくなる計算方法です。
- 届出=どの方法を使うかを、税務署に書面で知らせることです。
結論
- 「定率法は法人だけ」は、条件つきです。個人は、何も届け出なければ定額法になります。その限りでは、噂のとおりです。[5]
- 「減価償却資産の償却方法の届出書」を期限までに出せば、個人も定率法を選べます。法人と個人で違うのは、何も届け出なかったときの方法(法人は定率法、個人は定額法)だけです。[3][8][4]
- ただし、建物と、平成28年4月1日以後に取得した建物附属設備・構築物は、法人・個人とも定額法だけです。[10][6]
- 届出は、業務を始めた年、または、その区分の資産を初めて取得した年の確定申告期限までに、税務署へ書面で出します。すでに同じ区分の資産を定額法で償却しているときは、変更の承認申請が要ります(個人は変えようとする年の3月15日まで、法人は事業年度開始の日の前日まで)。[9][12][13]
判定は「条件つき」です。個人が何も届け出なければ定額法になる点は、噂のとおりです。しかし、届出という手続きを踏めば、個人も定率法を選べます。法人と個人を分けているのは、使える方法の範囲ではありません。何も届け出なかったときの方法です。順に見ていきます。
定額法と定率法は、何が違うのか
まず、2つの方法の違いを確認します。国税庁は、次のとおり説明しています。
償却費の額が原則として毎年同額となる。償却費の額は初めの年ほど多く、年とともに減少する。
(国税庁タックスアンサー「No.2106 定額法と定率法による減価償却」)
訳すと、こうなります。定額法は、毎年ほぼ同じ額を経費にします。定率法は、初めの年ほど多く、年とともに減っていきます[1]。
次に、どちらの方法を使うかを誰が決めるのかを見ます。法人税法第31条第1項は、次のとおり定めています。
内国法人の各事業年度終了の時において有する減価償却資産につきその償却費として第二十二条第三項(各事業年度の所得の金額の計算の通則)の規定により当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する金額は、その内国法人が当該事業年度においてその償却費として損金経理をした金額(以下この条において「損金経理額」という。)のうち、その取得をした日及びその種類の区分に応じ、償却費が毎年同一となる償却の方法、償却費が毎年一定の割合で逓減する償却の方法その他の政令で定める償却の方法の中からその内国法人が当該資産について選定した償却の方法(償却の方法を選定しなかつた場合には、償却の方法のうち政令で定める方法)に基づき政令で定めるところにより計算した金額(次項において「償却限度額」という。)に達するまでの金額とする。
(法人税法第31条第1項)
訳すと、こうなります。経費にできるのは、選んだ方法で計算した金額までです。条文は、方法を「償却費が毎年同一となる償却の方法」と「償却費が毎年一定の割合で逓減する償却の方法」に分けて書いています。毎年同じ額になる方法と、ならない方法の両方が、法律の段階で用意されています[2]。
個人の場合も、書き方は同じです。所得税法第49条第1項は、次のとおり定めています。
居住者のその年十二月三十一日において有する減価償却資産につきその償却費として第三十七条(必要経費)の規定によりその者の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入する金額は、その取得をした日及びその種類の区分に応じ、償却費が毎年同一となる償却の方法、償却費が毎年一定の割合で逓減する償却の方法その他の政令で定める償却の方法の中からその者が当該資産について選定した償却の方法(償却の方法を選定しなかつた場合には、償却の方法のうち政令で定める方法)に基づき政令で定めるところにより計算した金額とする。
(所得税法第49条第1項)
訳すと、こうなります。個人も、同じ2つの方法の中から選ぶと書かれています[3]。法律の段階では、個人と法人で使える方法の差はありません。
何も届け出なかったときの方法が違う
では、法人と個人で何が違うのか。それは、何も届け出なかったときに使う方法です。法令は、これを法定償却方法として定めています。まず、法人です。法人税法施行令第53条は、次のとおり定めています。
法第三十一条第一項(減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法)に規定する償却の方法を選定しなかつた場合における政令で定める方法は、次の各号に掲げる資産の区分に応じ当該各号に定める方法とする。
(法人税法施行令第53条第1項)
この条の第2号イは、機械装置や車両、器具備品などの資産(法人税法施行令第48条の2第1項第2号)と、平成28年3月31日以前に取得した建物附属設備・構築物(同項第1号イ)について、定率法と定めています[4][10]。
個人の場合です。所得税法施行令第125条は、次のとおり定めています。
法第四十九条第一項(減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法)に規定する償却の方法を選定しなかつた場合における政令で定める方法は、次の各号に掲げる資産の区分に応じ当該各号に定める方法とする。
(所得税法施行令第125条第1項)
この条の第2号イは、同じ資産(所得税法施行令第120条の2第1項第1号イ・第2号)について、定額法と定めています[5][8]。
つまり、同じ機械を買っても、何も届け出なければ、法人は定率法、個人は定額法になります。ここが「法人は定率法、個人は使えない」という言い方の正体です。国税庁は、個人向けの説明で次のとおり書いています。
この届出がない場合には、法定の償却方法で計算することになります。法定の償却方法は一般的には旧定額法または定額法です。
(国税庁タックスアンサー「No.2100 減価償却のあらまし」)
法人向けの説明には、次のように書かれています。
したがって、例えば、機械および装置の法定償却方法は定率法ですので、定額法の選定を希望される場合は、「減価償却資産の償却方法の届出書」を提出する必要があります。
(国税庁タックスアンサー「No.5409 減価償却資産の償却方法の選定手続き」)
訳すと、こうなります。機械装置の法定償却方法は定率法なので、法人が定額法にしたければ届出が必要です[7]。逆に、個人は何も出さなければ定額法です。だから、個人が定率法を使いたいときは、届出をします。
個人も、届出をすれば定率法を選べる
個人が選べる方法は、所得税法施行令第120条の2第1項に定められています。第2号は、機械装置や車両、器具備品などの資産について、次の2つを挙げています。
第六条第三号から第七号までに掲げる減価償却資産(次号及び第六号に掲げるものを除く。) 次に掲げる方法 イ 定額法 ロ 定率法
(所得税法施行令第120条の2第1項第2号)
訳すと、こうなります。機械装置や車両、器具備品などについては、個人も定額法と定率法のどちらでも選べます[8]。「イ」が定額法、「ロ」が定率法です。選んだ方法は、書面で税務署長に届け出て使います。
なお、この記事では、平成19年4月1日以後に取得した資産を前提にしています。それ以前に取得した資産には、旧定額法と旧定率法という別の方法があります。
定率法を選べない資産がある
ここまでの話には、例外があります。建物と、建物附属設備・構築物です。所得税法施行令第120条の2第1項第1号は、この区分について、選べる範囲を次のように分けています。
平成二十八年三月三十一日以前に取得された減価償却資産(建物を除く。) 次に掲げる方法 (1) 定額法(…) (2) 定率法
(所得税法施行令第120条の2第1項第1号イ)
続いて、この「イ」に当てはまらない資産の扱いを、次のとおり定めています。
イに掲げる減価償却資産以外の減価償却資産 定額法
(所得税法施行令第120条の2第1項第1号ロ)
訳すと、こうなります。第1号は、建物と建物附属設備、構築物をまとめた区分です。このうち「イ」は、平成28年3月31日以前に取得した建物以外の資産、つまり建物附属設備と構築物を指します。それ以外、つまり建物と、平成28年4月1日以後に取得した建物附属設備・構築物は、「ロ」に当たり、定額法だけになります[8]。
法人も同じです。法人税法施行令第48条の2第1項第1号は、同じ分け方をしています。
イに掲げる減価償却資産以外の減価償却資産 定額法
(法人税法施行令第48条の2第1項第1号ロ)
つまり、建物と、平成28年4月1日以後に取得した建物附属設備・構築物については、法人でも定率法を選べません[10]。「定率法は法人のもの」という言い方も、ここでは当てはまりません。
国税庁も、個人向けの説明で次のとおり書いています。
さらに、平成10年4月1日以後に取得した建物の償却方法は、旧定額法または定額法のみとなり、平成28年4月1日以後に取得した建物附属設備および構築物の償却方法は定額法となります。
(国税庁タックスアンサー「No.2100 減価償却のあらまし」)
訳すと、こうなります。建物は、平成10年4月1日以後に取得したものなら、定率法は使えません。取得した時期に応じて、旧定額法か定額法になります[6]。建物附属設備と構築物は、平成28年4月1日以後に取得したものなら、定額法だけです。
届出の期限と、方法を変えるときの手続き
届出は、いつまでに出せばよいのでしょうか。個人の期限は、所得税法施行令第123条第2項に定められています。
居住者は、次の各号に掲げる者の区分に応じ当該各号に定める日の属する年分の所得税に係る確定申告期限までに、その有する減価償却資産と同一の区分(前項に規定する区分をいい、二以上の事業所又は船舶を有する居住者で事業所又は船舶ごとに償却の方法を選定しようとする場合にあつては、事業所又は船舶ごとの当該区分をいう。)に属する減価償却資産につき、当該区分ごとに、第百二十条第一項又は第百二十条の二第一項に規定する償却の方法のうちそのよるべき方法を書面により納税地の所轄税務署長に届け出なければならない。
(所得税法施行令第123条第2項)
訳すと、こうなります。個人は、業務を開始した日、または、それまで持っていなかった区分の資産を取得した日の属する年分の確定申告期限までに、書面で届け出ます[9]。国税庁も、次のとおり説明しています。
新たに業務を始めた場合には、減価償却の方法を選定してその翌年の3月15日までに所轄の税務署長に届け出なければなりません。
(国税庁タックスアンサー「No.2100 減価償却のあらまし」)
訳すと、こうなります。業務を始めた年は、翌年の3月15日までです[6]。その区分の資産を初めて取得したときも、その年の確定申告期限までです。
ただし、この期限は、その区分の資産をそれまで持っていなかったときのものです。すでに同じ区分の資産を持っていて、届け出をしないまま定額法で償却している場合、あとから同じ区分の資産を買い足しても、確定申告期限までの届出で定率法に変えることはできません。変えるには、所得税法施行令第124条の変更の承認申請を、変えようとする年の3月15日までに出すことになります[12]。
法人の期限は、法人税法施行令第51条第2項に定められています。
その有する減価償却資産と同一の資産区分に属する減価償却資産につき、当該資産区分ごとに、第四十八条第一項又は第四十八条の二第一項に規定する償却の方法のうちそのよるべき方法を書面により納税地の所轄税務署長に届け出なければならない。
(法人税法施行令第51条第2項)
訳すと、こうなります。法人は、設立の日、または、それまで持っていなかった資産区分の資産を取得した日の属する事業年度の確定申告期限までに、書面で届け出ます[11]。国税庁の説明は、次のとおりです。
法人は、平成19年4月1日以後に取得をされた減価償却資産の償却方法について、平成19年3月31日以前に取得をされたものと区分した上で、資産の種類ごとや事務所または船舶ごとに選定し、確定申告書の提出期限までに、「減価償却資産の償却方法の届出書」を税務署長に届け出ることとされています。
(国税庁タックスアンサー「No.5409 減価償却資産の償却方法の選定手続き」)
訳すと、こうなります。法人は、確定申告書の提出期限までに届け出ます[7]。すでに同じ資産区分の資産を持っている場合は、その届出では方法を選び直せず、変更の承認が必要になります[11][13]。
次に、あとから方法を変えるときです。個人は、所得税法施行令第124条第2項に定められています。
その新たな償却の方法を採用しようとする年の三月十五日までに、その旨、変更しようとする理由その他財務省令で定める事項を記載した申請書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。
(所得税法施行令第124条第2項)
訳すと、こうなります。個人は、変更しようとする年の3月15日までに、申請書を出します[12]。法人の期限は、法人税法施行令第52条第2項です。
その新たな償却の方法を採用しようとする事業年度開始の日の前日までに、その旨、変更しようとする理由その他財務省令で定める事項を記載した申請書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。
(法人税法施行令第52条第2項)
訳すと、こうなります。法人は、新しい方法を使おうとする事業年度が始まる日の前日までです[13]。国税庁は、変更の手続きを次のとおり説明しています。
減価償却資産の償却方法を変更しようとするときは、原則として、新たな償却方法を採用しようとする事業年度開始の日の前日までに償却方法を変更しようとする理由などを記載した「減価償却資産の償却方法の変更承認申請書」を所轄税務署長に提出して、所轄税務署長の承認を受けなければなりません。
(国税庁タックスアンサー「No.5407 減価償却資産の償却方法の変更手続」)
訳すと、こうなります。変えたいときは、申請書を出して税務署長の承認を受けます[14]。国税庁は、承認されない場合も説明しています。
その法人が現によっている償却の方法を採用してから3年を経過していない場合は、その変更が合併や分割に伴うものである等特別な理由があるときを除き、相当の期間を経過していないときに該当します。
(国税庁タックスアンサー「No.5407 減価償却資産の償却方法の変更手続」)
訳すと、こうなります。法人が今の方法を採用してから3年を経過していない場合、合併や分割に伴うものなど特別な理由がないと、変更は承認されません[14]。
こうすればいい
なお、ここでいう「区分」は、車両運搬具、器具及び備品のように、財務省令の別表で分けられた資産の種類のことです。国税庁も「減価償却資産の財務省令の別表に定められている種類ごとに選定します」と説明しています[6]。たとえば、パソコン(器具及び備品)を持っている人が車(車両運搬具)を買う場合は別の区分になるので、その車について、新しく選定の届出ができます。
| 資産 | 法人 | 個人 |
|---|---|---|
| 機械装置・車両・器具備品など | 届出なしなら定率法。定額法にしたければ届出[4][7] | 届出なしなら定額法。定率法にしたければ届出[5][8] |
| 建物(平成10年4月1日以後に取得) | 定額法だけ。届出でも変わらない[10][6] | 定額法だけ。届出でも変わらない[10][6] |
| 建物附属設備・構築物(平成28年4月1日以後に取得) | 定額法だけ[10][6] | 定額法だけ[10][6] |
| 建物附属設備・構築物(平成28年3月31日以前に取得) | 届出なしなら定率法。届出でどちらでも[4][10] | 届出なしなら定額法。届出でどちらでも[5][8] |
法人と個人で違うのは、届出をしなかったときの方法だけです。定率法を使いたい個人は、その区分の資産を初めて持つときに届け出れば選べます。逆に、定額法を使いたい法人も、届け出れば選べます。すでに同じ区分の資産を持っているときは、変更の承認申請です。
まとめ
「定率法は法人だけ」は、条件つきです。個人は、何も届け出なければ定額法になります。その限りでは、噂のとおりです。届出をすれば、個人も定率法を選べます。
- 法律は、個人にも法人にも「選定した償却の方法」と書いています[2][3]。
- 違うのは、何も届け出なかったときの方法です。法人は定率法、個人は定額法です[4][5]。
- 個人も、届出をすれば定率法を選べます[8][9]。
- 建物と、平成28年4月1日以後に取得した建物附属設備・構築物は、法人・個人とも定額法だけです[10][6]。
- 届出は、その区分の資産を初めて取得した年の確定申告期限までです。すでに同じ区分の資産を持っているときは、変更の承認申請が要ります[9][11][12][13]。
- あとから変えるときは、税務署長の承認が必要です[12][13][14]。
同じ機械を買っても、何も届け出なければ、法人は定率法、個人は定額法になります。ここだけを見ると、法人だけが定率法を使えるように見えます。しかし、方法は選べます。定率法を使いたい個人は、その区分の資産を初めて取得した年の確定申告期限までに、税務署へ届け出れば、定率法を選べます。
出典
- [1]No.2106 定額法と定率法による減価償却 — 国税庁タックスアンサー 確認日:2026-10-17
- [2]法人税法第31条(e-Gov法令検索) 確認日:2026-10-17
- [3]所得税法第49条(e-Gov法令検索) 確認日:2026-10-17
- [4]法人税法施行令第53条(e-Gov法令検索) 確認日:2026-10-17
- [5]所得税法施行令第125条(e-Gov法令検索) 確認日:2026-10-17
- [6]No.2100 減価償却のあらまし — 国税庁タックスアンサー 確認日:2026-10-17
- [7]No.5409 減価償却資産の償却方法の選定手続き — 国税庁タックスアンサー 確認日:2026-10-17
- [8]所得税法施行令第120条の2(e-Gov法令検索) 確認日:2026-10-17
- [9]所得税法施行令第123条(e-Gov法令検索) 確認日:2026-10-17
- [10]法人税法施行令第48条の2(e-Gov法令検索) 確認日:2026-10-17
- [11]法人税法施行令第51条(e-Gov法令検索) 確認日:2026-10-17
- [12]所得税法施行令第124条(e-Gov法令検索) 確認日:2026-10-17
- [13]法人税法施行令第52条(e-Gov法令検索) 確認日:2026-10-17
- [14]No.5407 減価償却資産の償却方法の変更手続 — 国税庁タックスアンサー 確認日:2026-10-17
※ 本文は2026年10月17日時点の法令・公式情報に基づきます。出典は、法令(e-Gov)・国税庁の公式資料を基本としています。公開後に訂正が生じた場合は、訂正記録をこの記事の末尾に掲載します(訂正ポリシー)。