「相続財産があったら申告が必要」は本当?
「親が亡くなって相続財産があるなら、相続税の申告をしなければならない」。葬儀のあと、親族の間でよく交わされる言葉です。財産を相続したのだから、当然そうなるように思えます。
この話はどこまで本当なのか、相続税法の条文と、国税庁の説明で確かめました。結論から言うと、この噂はウソです。申告が必要かどうかを決めるのは、「課税価格の合計額が遺産に係る基礎控除額を超えたかどうか」です。相続財産があるかどうかでは決まりません。基礎控除の範囲に収まれば、申告は要りません。
ただし、基礎控除を超えたあとに特例で納める税額が0円になる場合でも、申告書は必要です。また、相続税の申告が要らなくても、亡くなった人の所得税の申告が要ることがあります。この2つを混ぜると、判断を誤ります。順に見ていきます。
税金の言葉、先に5つだけ
この記事に出てくる言葉を、先にやさしく説明します。
- 相続税(そうぞくぜい)=亡くなった人から財産を受け取ったときにかかる税金です。遺産全体をまとめて計算します。受け取った人ごとに分けるものではありません。
- 課税価格(かぜいかかく)=相続税の計算の土台になる金額です。相続財産から非課税の財産と債務・葬式費用を引き、死亡保険金や死亡退職金などの相続税の対象になる財産[10][12]と、生前の贈与で加算される分(相続時精算課税の適用財産と、加算の対象になる暦年課税の贈与財産)を足して求めます[9]。
- 遺産に係る基礎控除額(いさんにかかるきそこうじょがく)=課税価格から差し引ける金額です。3,000万円+600万円×法定相続人の数で計算します[1]。
- 法定相続人(ほうていそうぞくにん)=民法で決まっている相続人のことです。配偶者と、子、親、兄弟姉妹などが該当します。遺言で財産をもらう「受遺者」とは別の概念です。
- 準確定申告(じゅんかくていしんこく)=亡くなった人のその年の所得税を、相続人が代わりに申告することです。相続税の申告とは別の手続きです[7]。
結論
- 相続税の申告が必要になるのは、相続などで財産を取得したすべての人の課税価格の合計額が、遺産に係る基礎控除額を超え、かつ、その人に相続税額があるときです。財産があるだけでは、申告義務は生じません。ここでいう相続税額は、配偶者の税額軽減を使う前の税額です。[2][4]
- 遺産に係る基礎控除額は、3,000万円+600万円×法定相続人の数です。相続人が3人なら4,800万円、2人なら4,200万円、1人なら3,600万円です。課税価格の合計額がこれ以下なら、相続税額は0円になります。[1][3]
- 基礎控除を超えている場合は、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例で納める税額が0円になっても、申告書を出す必要があります。判定に使う課税価格は、特例を使う前の金額です。また、相続税の申告が不要でも、亡くなった人の所得税の準確定申告が必要なことがあります。[5][6][7]
判定は「ウソ」です。相続財産があれば必ず申告が必要、という言い方が誤りだからです。申告義務の条項は、財産の有無ではなく、基礎控除を超えたかどうかと、税額が出たかどうかを見ています[2]。実際、国税庁も「課税価格の合計額が、遺産に係る基礎控除額を超える場合、その財産を取得した人は、相続税の申告をする必要があります」と説明しています[4]。財産があることは、申告が必要になるための条件の一部にすぎません。
一方で、この噂が「まったくのデタラメ」でもありません。基礎控除を超えれば申告は必要ですし、特例で税額が0円になっても申告が要ります。ですから「基礎控除を超えたから申告する」と言い換えれば、正しくなります。順に見ていきます。
条文を読む:申告義務が生じるのは「基礎控除を超えたとき」
まず、相続税の申告義務を定めている条文を読みます。相続税法第27条第1項です。
相続又は遺贈(当該相続に係る被相続人からの贈与により取得した財産で第二十一条の九第三項の規定の適用を受けるものに係る贈与を含む。以下この条において同じ。)により財産を取得した者及び当該被相続人に係る相続時精算課税適用者は、当該被相続人からこれらの事由により財産を取得したすべての者に係る相続税の課税価格(第十九条又は第二十一条の十四から第二十一条の十八までの規定の適用がある場合には、これらの規定により相続税の課税価格とみなされた金額)の合計額がその遺産に係る基礎控除額を超える場合において、その者に係る相続税の課税価格(第十九条又は第二十一条の十四から第二十一条の十八までの規定の適用がある場合には、これらの規定により相続税の課税価格とみなされた金額)に係る第十五条から第十九条まで、第十九条の三から第二十条の二まで及び第二十一条の十四から第二十一条の十八までの規定による相続税額があるときは、その相続の開始があつたことを知つた日の翌日から十月以内(その者が国税通則法第百十七条第二項(納税管理人)の規定による納税管理人の届出をしないで当該期間内にこの法律の施行地に住所及び居所を有しないこととなるときは、当該住所及び居所を有しないこととなる日まで)に課税価格、相続税額その他財務省令で定める事項を記載した申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。
(相続税法第27条第1項・e-Gov法令検索)
条文が長いので、条件を分けて読みます。申告書を出さなければならないのは、次の3つが重なったときです。
- 相続や遺贈で財産を取得したすべての人の、課税価格の合計額が、遺産に係る基礎控除額を超えていること。
- その人自身に、相続税額があること。
- 期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内であること。
ここで大事なのは、1つ目の条件が「課税価格の合計額」で測られている点です。課税価格は、相続財産の額そのものではありません。債務や葬式費用を引き、非課税の財産を除いたあとの金額です[3]。財産が1億円あっても、借金が9,000万円あれば、課税価格は小さくなります。
2つ目の条件も見落とせません。条文は、その人に相続税額があるときと定めています。ただし、ここでいう相続税額は、条文に列挙された「第十五条から第十九条まで、第十九条の三から第二十条の二まで」などの規定による税額です。配偶者の税額軽減(第19条の2)は、この列挙に入っていません[2]。つまり、軽減を使う前の税額で判定します。軽減によって納める税額が0円になる人でも、軽減前の税額があれば申告が必要です。反対に、軽減前の税額が0円なら、その人に申告義務はありません。
相続人が複数のときは、全員の分を1つの申告書にまとめて提出できます。相続税法第27条第5項は、同一の被相続人から財産を取得した人が2人以上いて、提出先の税務署が同じときは、共同して申告書を提出できると定めています[2]。ただし、申告義務は人ごとに判定します。同じ申告書で出しても、税額がない人には申告義務がありません。
基礎控除は3,000万円+600万円×相続人の数
次に、申告が必要かどうかの分かれ目になる「遺産に係る基礎控除額」を確かめます。相続税法第15条第1項です。
相続税の総額を計算する場合においては、同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した全ての者に係る相続税の課税価格(第十九条の規定の適用がある場合には、同条の規定により相続税の課税価格とみなされた金額。次条から第十八条まで及び第十九条の二において同じ。)の合計額から、三千万円と六百万円に当該被相続人の相続人の数を乗じて算出した金額との合計額(以下「遺産に係る基礎控除額」という。)を控除する。
(相続税法第15条第1項・e-Gov法令検索)
訳すと、こうなります。相続税を計算するときは、相続などで財産を取得した全員の課税価格の合計額から、3,000万円と、600万円に相続人の数を掛けた金額との合計を差し引きます[1]。この差し引く金額が、遺産に係る基礎控除額です。
国税庁も、同じ式を示しています。
課税価格の合計額 - 基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)= 課税遺産総額
(国税庁タックスアンサー「No.4152 相続税の計算」)
相続人の数が3人なら、3,000万円+600万円×3人=4,800万円です。2人なら4,200万円、1人なら3,600万円になります。課税価格の合計額がこの金額以下なら、課税遺産総額は0円になり、相続税額も0円です[3]。
相続人の数の数え方にも、決まりがあります。国税庁は、次の2点を注記しています。
(注1) 法定相続人の数は、相続の放棄をした人がいても、その放棄がなかったものとした場合の相続人の数をいいます。
(国税庁タックスアンサー「No.4152 相続税の計算」)
(1) 被相続人に実子がいる場合は、養子のうち1人までを法定相続人に含めます。(2) 被相続人に実子がいない場合は、養子のうち2人までを法定相続人に含めます。
(国税庁タックスアンサー「No.4152 相続税の計算」)
つまり、相続を放棄した人がいても、基礎控除の計算ではその人を数に入れます。養子は、実子がいれば1人まで、実子がいなければ2人までを数に入れます[3]。ただし、法律上、特別養子縁組による養子と、配偶者の実子で養子にした人は実子として扱われます(相続税法第15条第3項)[1]。この人たちは「養子1人まで」の枠を使わず、実子として数えます。この数え方を誤ると、基礎控除額がずれます。
具体例で確かめる
数字を入れて確かめます。どちらも、妻と子2人が相続人です。法定相続人が3人なので、基礎控除額は3,000万円+600万円×3人=4,800万円になります。ここでは、死亡保険金や生前の贈与がなく、債務と葬式費用だけを引く単純な例で確かめます(贈与の加算は用語の説明と手順1を参照)。
| 項目 | Aさんの例 | Bさんの例 |
|---|---|---|
| 相続財産 | 預金3,000万円+自宅の評価額2,000万円=5,000万円 | 預金3,000万円+自宅の評価額3,000万円=6,000万円 |
| 債務・葬式費用 | 500万円 | 500万円 |
| 課税価格の合計額 | 4,500万円 | 5,500万円 |
| 遺産に係る基礎控除額 | 4,800万円 | 4,800万円 |
| 課税遺産総額 | 0円(4,500万円-4,800万円はマイナス) | 700万円 |
| 相続税の申告 | 不要 | 必要 |
Aさんの例では、相続財産は5,000万円あります。しかし債務と葬式費用を引くと4,500万円になり、基礎控除の4,800万円を下回ります。課税遺産総額は0円なので、相続税はかかりません。申告も要りません。「財産が5,000万円あったから申告する」のではありません。
Bさんの例では、課税価格の合計額が5,500万円で、基礎控除の4,800万円を700万円超えます。課税遺産総額が700万円になるので、相続税がかかり、申告が必要です[3][4]。
ここで使う「自宅の評価額」は、売買価格ではありません。相続税の計算では、相続税法と財産評価基本通達に基づいて財産を評価します[8]。土地は路線価などで評価するため、実際に売ったときの金額とは違います。この評価額がいくらになるかで、申告が必要かどうかが変わります。
基礎控除を超えたのに、税額が0円でも申告書は必要
ここまでは「基礎控除を超えたら申告が必要」という話でした。続いて、基礎控除を超えたあとに税額が0円になっても、申告書が要る場合を見ます。第2節で見たとおり、判定に使うのは軽減前の税額です。また、比べる課税価格は、特例を適用しない場合の金額です。国税庁は、基礎控除と比べる金額について、次のとおり注記しています。
(注2) 財産の価額の合計額とは、租税特別措置法第69条の4(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)および租税特別措置法第69条の5(特定計画山林についての相続税の課税価格の計算の特例)等を適用しない場合における課税価格の合計額をいいます。
(国税庁タックスアンサー「No.4205 相続税の申告」)
大きく2つあります。
1つ目は、配偶者の税額軽減を使うときです。相続税法第19条の2は、配偶者が相続で取得した財産について、一定の金額まで相続税を軽減する制度を定めています。この軽減で納める税額が0円になっても、申告義務の判定は軽減前の税額で行います。軽減前の税額があり、基礎控除を超えていれば、申告書が必要です。加えて、軽減は申告書に所定の記載と書類の添付がある場合に限り適用されます。相続税法第19条の2第3項です。
第一項の規定は、第二十七条の規定による申告書(当該申告書に係る期限後申告書及びこれらの申告書に係る修正申告書を含む。第五項において同じ。)又は国税通則法第二十三条第三項(更正の請求)に規定する更正請求書に、第一項の規定の適用を受ける旨及び同項各号に掲げる金額の計算に関する明細の記載をした書類その他の財務省令で定める書類の添付がある場合に限り、適用する。
(相続税法第19条の2第3項・e-Gov法令検索)
訳すと、こうなります。配偶者の税額軽減は、相続税の申告書か更正の請求書に、軽減を受ける旨と金額の計算の明細を書いた書類を添えた場合にだけ適用されます[5]。軽減を受けて納める税額を0円にしたいときは、申告書を出す必要があります。
2つ目は、小規模宅地等の特例を使うときです。自宅の土地などについて、一定の面積まで評価額を減らせる特例です。この特例も、申告書への記載と書類の添付が前提です。国税庁は、次のとおり説明しています。
この特例の適用を受けるためには、相続税の申告書にこの特例の適用を受ける旨その他所定の事項を記載するとともに一定の書類を添付して提出する必要があります。
(国税庁「相続税の申告要否判定コーナー」小規模宅地等の特例)
訳すと、こうなります。特例を受けるには、相続税の申告書に特例を受ける旨を書き、決められた書類を添えて出す必要があります[6]。特例で評価額を下げた結果、税額が0円になる場合でも、申告書を出さなければ特例は使えません。また、申告が必要かを決める課税価格は、特例を適用しない場合の金額で見ます[11]。
相続税とは別に、亡くなった人の所得税の申告が必要になる
相続税の申告とは別に、亡くなった人の所得税の申告(準確定申告)が必要になることがあります。相続税の申告期限は10か月ですが、こちらは4か月で、先に来ます。
亡くなった人には、その年の1月1日から亡くなった日までの所得税がかかります。これを申告するのが準確定申告です。国税庁は、次のとおり説明しています。
しかし、年の中途で死亡した人の場合は、相続人(包括受遺者を含みます。以下「相続人等」といいます。)が、1月1日から死亡した日までに確定した所得金額および税額を計算して、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に申告と納税をしなければなりません。これを準確定申告といいます。
(国税庁タックスアンサー「No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)」)
訳すと、こうなります。年の中途で亡くなった人の所得税は、相続人が、1月1日から死亡の日までの分を計算して、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内に申告して納めます[7]。不動産所得や事業所得があった人では、この申告が必要になることがあります。
相続税の申告が要らないと聞いて安心したあと、亡くなった人の所得税の申告を忘れる。これが、実際に起きやすい落とし穴です。2つの申告は、期限も、申告する人も、対象になる所得も違います。
判定ツールを使うときの注意
国税庁は、相続税の申告が必要かどうかを自分で確かめられる「相続税の申告要否判定コーナー」を公開しています。便利な仕組みですが、計算の前提が本来の計算方法と違う場合があります。国税庁は、その注意を次のように書いています。
ただし、当コーナーは、相続財産、債務及び葬式費用等の合計額を入力して課税遺産総額を計算しており、「財産を取得した各人の課税価格の合計額」を基に計算しておりません。
(国税庁「相続税の申告要否判定コーナー」相続税の申告が必要となる場合)
国税庁が挙げている例は、こうです。相続財産が2億円、債務と葬式費用が3億円、相続人は妻と子の2人。妻が2億5,000万円の債務を、子が5,000万円の債務を承継します。
本来の計算では、妻の課税価格は1億円-2億5,000万円で0円、子の課税価格は1億円-5,000万円で5,000万円です。合計は5,000万円で、基礎控除の4,200万円を超えるため、課税遺産総額は800万円になり、申告が必要です。ところが判定コーナーは、相続財産の合計2億円から債務の合計3億円を引いて0円と計算するため、「申告は不要」と表示します。国税庁は、この例について「具体例のような場合は、申告が必要となりますので、ご注意ください」と書いています[4]。
債務が相続人ごとに分かれている場合、全体の財産と全体の債務を相殺すると、実際より小さく出ることがあります。ツールの結果だけで判断せず、相続人ごとの課税価格を計算して確かめる必要があります。
こうすればいい
| 手順 | やること |
|---|---|
| 1. 財産を洗い出す | 預金、不動産、有価証券、生命保険金、退職手当金などを一覧にします。生命保険金や退職手当金は、相続財産ではないのに相続税の計算に入る財産です[10]。非課税の部分は除きます。生前に贈与を受けた財産のうち、相続税の計算に加算されるものも含めます[9]。 |
| 2. 債務と葬式費用を引く | 借入金、未払金、葬式費用などを引きます。借金が多いと、課税価格は小さくなります。 |
| 3. 基礎控除と比べる | 3,000万円+600万円×法定相続人の数で基礎控除額を出し、課税価格の合計額と比べます。比べる金額は、小規模宅地等の特例を適用しない場合の金額です[11]。これ以下なら、相続税額は0円で、申告は原則として不要です。 |
| 4. 特例を使うかを決める | 自宅の土地や事業用の土地があるなら、小規模宅地等の特例を使えるか確かめます。使う場合は、特例を適用する前の課税価格が基礎控除を超えていれば、税額が0円でも申告書が必要です[6][11]。配偶者の税額軽減を使う場合も同じです[5]。 |
| 5. 亡くなった人の所得税を確かめる | その年に確定申告が必要な所得があったなら(たとえば不動産所得や事業所得)、準確定申告が必要かを確かめます。期限は、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内です[7]。 |
| 迷ったら | 財産の評価額と債務の分け方は、判断が難しいところです。税理士に相談してください。 |
相続税の申告書の提出先は、亡くなった人の死亡の時の住所が日本国内にある場合は、その住所地を所轄する税務署です。相続人の住所地の税務署ではありません[11]。申告と納税の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です[2]。期限が土曜日・日曜日・祝日にあたるときは、その翌日が期限とみなされます[11]。
申告書を出すと決めたら
申告が必要だと分かったあとに、待っている手続きがあります。遺産の分割と、納税の方法です。
まず、遺産の分割です。相続税の申告期限までに遺産の分割が決まらない場合、民法に定める相続分で財産を取得したものとして申告します。国税庁は、次のとおり説明しています。
また、期限までに分割できなかったときは民法に規定する相続分で相続財産を取得したものとして相続税の申告をすることになります。
(国税庁タックスアンサー「No.4202 相続税の申告のために必要な準備」)
訳すと、こうなります。期限までに分割できなければ、民法の相続分どおりに取得したものとして申告します[8]。ただし、分割が決まるまで、配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例は使えません。相続税法第19条の2第2項は、分割されていない財産を軽減の対象から除いています[5]。分割が申告期限に間に合わなくても、申告期限から3年以内に分割されれば、あとから更正の請求で特例を適用できます。その場合は、分割が行われた日の翌日から4か月以内に手続きをします[6]。分割ができないことに訴えの提起その他のやむを得ない事情があるときは、税務署長の承認を受けて、分割ができることとなった日の翌日から4か月以内に延ばせます(相続税法第19条の2第2項)[5]。期限を過ぎたから終わりではありませんが、使える制度が一時的に制限されることは知っておいてください。
次に、納税の方法です。相続税は、申告書の提出期限までに金銭で納めるのが原則です。一括で納められない場合には、延納と物納という制度があります。国税庁は、次のとおり説明しています。
しかし、相続税額が10万円を超え金銭で申告期限までに一括納付することが困難な事由がある場合に、何年かに分けて金銭で納める延納と延納によっても金銭で納付することが困難な事由がある場合に、相続または遺贈で取得した財産そのもので納める物納という制度があります。
(国税庁タックスアンサー「No.4202 相続税の申告のために必要な準備」)
訳すと、こうなります。相続税額が10万円を超え、期限までに一括で納めることが難しいときは、分割払いにあたる延納が使えます。延納でも納められないときは、相続した財産そのもので納める物納が使えます[8]。どちらも、申告書の提出期限までに税務署へ申請して許可を受ける必要があります[8]。
まとめ
「相続財産があったら申告が必要」は、ウソです。申告が必要かどうかは、財産の有無ではなく、課税価格の合計額が遺産に係る基礎控除額を超えたかどうかで決まります。超えなければ相続税額は0円で、申告義務はありません。ただし、基礎控除を超えていれば、特例で税額が0円になっても申告が必要になる場面と、相続税とは別に所得税の申告が必要になる場面があります。
- 相続税の申告義務は、課税価格の合計額が遺産に係る基礎控除額を超え、かつ、その人に相続税額があるときに生じます。期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です[2]。
- 遺産に係る基礎控除額は、3,000万円+600万円×法定相続人の数です。相続人が3人なら4,800万円です[1][3]。
- 基礎控除の計算では、相続を放棄した人も数に入れます。養子は、実子がいれば1人まで、いなければ2人までです。特別養子縁組の養子と、配偶者の実子で養子にした人は、実子として数えます[1][3]。
- 注意:基礎控除を超えているときは、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例で納める税額が0円でも申告書が必要です。判定は、特例を使う前の課税価格で行います[5][6]。
- 注意:相続税の申告が不要でも、亡くなった人の所得税の準確定申告が必要なことがあります。期限は4か月以内で、相続税より先に来ます[7]。
- 注意:国税庁の判定コーナーは、全体の財産と全体の債務を相殺して計算します。債務が相続人ごとに分かれている場合は、実際と違う結果が出ることがあります[4]。
見るのは、財産を相続したかどうかではありません。基礎控除を超えたかどうかです。これが判断の出発点です。そして、相続税と所得税は別の税金です。相続税の申告が不要でも、亡くなった人の所得税の申告が必要なことがあります。2つを分けて確かめてください。
出典
- [1]相続税法第15条(遺産に係る基礎控除・e-Gov法令検索) 確認日:2026-10-20
- [2]相続税法第27条(相続税の申告書・e-Gov法令検索) 確認日:2026-10-20
- [3]No.4152 相続税の計算 — 国税庁タックスアンサー 確認日:2026-10-20
- [4]相続税の申告が必要となる場合 — 国税庁「相続税の申告要否判定コーナー」 確認日:2026-10-20
- [5]相続税法第19条の2(配偶者に対する相続税額の軽減・e-Gov法令検索) 確認日:2026-10-20
- [6]小規模宅地等の特例 — 国税庁「相続税の申告要否判定コーナー」 確認日:2026-10-20
- [7]No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告) — 国税庁タックスアンサー 確認日:2026-10-20
- [8]No.4202 相続税の申告のために必要な準備 — 国税庁タックスアンサー 確認日:2026-10-20
- [9]No.4102 相続税のかかる財産と課税価格の計算 — 国税庁タックスアンサー 確認日:2026-10-20
- [10]No.4114 相続人の取得した死亡保険金 — 国税庁タックスアンサー 確認日:2026-10-20
- [11]No.4205 相続税の申告 — 国税庁タックスアンサー 確認日:2026-10-20
- [12]No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金 — 国税庁タックスアンサー 確認日:2026-10-20
※ 本文は令和8年10月20日現在の法令・公式情報に基づきます。出典は、法令(e-Gov)・国税庁の公式資料を基本としています。公開後に訂正が生じた場合は、訂正記録をこの記事の末尾に掲載します(訂正ポリシー)。