「年収1,000万円を超えると税金で半分以上取られる」は
本当?
「年収1,000万円を超えると、半分以上が税金で取られる。累進課税で55%だから仕方ない」。上司やSNSで、こんな話を耳にしたことはありませんか?
「55%」と聞くと高く感じますが、実は最高の税率はもっと高く、55.945%です。所得税の最高税率45%に、所得税額の2.1%の復興特別所得税(45%×1.021=45.945%)と、住民税(所得割)の標準税率10%が加わるからです。
でも、この55.945%が所得の全部にかかるわけではありません。かかるのは、課税所得が4,000万円を超えた「その部分」だけです。年収1,000万円の給料だけの人であれば、所得税は約109万円、住民税を足しても負担は年収の約18.5%です。「半分以上取られる」は間違いです。
この噂を、法令の原文と国税庁の公式情報まで遡って確かめました。
税金の言葉、先に5つだけ
この記事に出てくる言葉を、先にやさしく説明します。
- 累進課税=所得が大きいほど税率が上がる仕組みです。
- 超過累進=所得を区分に分けて、区分ごとに税率をかける計算方法です。
- 課税総所得金額=所得から基礎控除などを引いて、税金の計算の元になる額です。
- 平均税率=税額÷課税対象の所得で出す、全体への負担率です。
- 限界税率=いま1円増えたとき、その1円にかかる税率です。後の落とし穴②で説明します。
結論
- 噂の「55%」は、実はもっと高く、所得税45%・復興特別所得税・住民税10%(標準税率)を合わせて最高55.945%です。[2]ただし、この税率がかかるのは課税所得4,000万円を超えた部分だけで、所得全体にかかる税率ではありません。[1][8][9]
- 年収1,000万円の給料だけの人では、増えた1円にかかる税率は所得税23%+住民税10%の33%です(復興特別所得税を入れると約33.5%)。実際の負担は、所得税(復興特別所得税を含む)約109万円・住民税約76万円の合計約185万5,000円で、年収の約18.5%です(所得控除は基礎控除のみの概算)。[2][3][6]
- 所得税と住民税を合わせた負担が所得の半分を超えるのは、課税所得約8,200万円を超えたあたりからです。年収1,000万円の話ではありません。
判定は「ウソ」です。次から、根拠を順に見ていきます。
「55%」どころか55.945%。でも全部にはかからない
まず、55%のうち45%を占める所得税の税率から見ます。所得税法89条は、税率を「区分して、それぞれの金額に税率を乗じて計算した金額を合計する」と定めています。
居住者に対して課する所得税の額は、その年分の課税総所得金額又は課税退職所得金額をそれぞれ次の表の上欄に掲げる金額に区分してそれぞれの金額に同表の下欄に掲げる税率を乗じて計算した金額を合計した金額と、その年分の課税山林所得金額の五分の一に相当する金額を同表の上欄に掲げる金額に区分してそれぞれの金額に同表の下欄に掲げる税率を乗じて計算した金額を合計した金額に五を乗じて計算した金額との合計額とする[1]
(抜粋)
少し堅い文章なので訳すと、こうなります。所得を195万円以下・195万円超330万円以下…という区分に分けて、区分ごとに税率をかけて足し合わせる。これが所得税の計算方法です。最高税率の45%は、この表の最後の区分「4,000万円を超える金額」にだけ使われます。
四千万円を超える金額 百分の四十五[1]
(抜粋)
国税庁も、税率について同じ説明をしています。
所得税の税率は、分離課税に対するものなどを除くと、5パーセントから45パーセントの7段階に区分されています[2]
(抜粋)
残りは住民税と復興特別所得税です。住民税の所得割は、所得の大きさにかかわらず標準税率10%です(道府県民税4%+市町村民税6%。多くの市区町村はこの税率です)[8][9]。さらに所得税には、所得税額の2.1%の復興特別所得税が加わります[2]。45%×1.021=45.945%に住民税10%を足すと、最高の税率は55.945%になります。噂の55%より、実は少し高いのです。なお、令和9年1月1日以後に生ずる所得については、復興特別所得税の税率が1.1%に引き下げられ、防衛特別所得税(源泉徴収すべき所得税の額の1%)が併せて源泉徴収されます[2]。この記事の数字は令和8年分で計算しています。
ただし、この55.945%は「課税所得4,000万円を超えた部分にかかる税率」です。所得全体にかかる税率ではありません。この区別が、噂の誤りのもとです。
最高の税率がかかるのは「4,000万円を超えた部分」だけ
所得税法89条の税率表を、所得額の低い順に並べると次の7区分になります[1]。
| 課税総所得金額 | 所得税率 | 住民税を足すと |
|---|---|---|
| 195万円以下の部分 | 5% | 15% |
| 195万円超330万円以下の部分 | 10% | 20% |
| 330万円超695万円以下の部分 | 20% | 30% |
| 695万円超900万円以下の部分 | 23% | 33% |
| 900万円超1,800万円以下の部分 | 33% | 43% |
| 1,800万円超4,000万円以下の部分 | 40% | 50% |
| 4,000万円超の部分 | 45% | 55% |
「住民税を足すと」の列は、所得税の区分に住民税の標準税率10%を足した目安です。住民税は基礎控除などが所得税と違うので、課税所得は少し変わります。復興特別所得税は入れていません(入れると、いちばん下の行は55.945%になります)。
この表の読み方が「超過累進」です。最高の税率がかかるのは、表のいちばん下の行だけです。年収1,000万円の人に55%がかかるわけではなく、下の区分から順に、その区分の金額にその税率をかけていきます。
国税庁の速算表(No.2260)は、この計算を1回の掛け算と引き算で済ませる方法です。課税所得700万円の場合の例が、国税庁のページにあります。
7,000,000円×0.23 - 636,000円= 974,000円[2]
(抜粋)
課税所得700万円には、23%の区分が使われます。速算表は、全体に23%をかけると、下の区分(5%・10%・20%)にも23%をかけたことになるので、かけすぎた分を控除額63万6,000円で引き戻す仕組みです。つまり速算表の税率は「その区分に達した部分の税率」で、700万円全体が23%で課税されるわけではありません。
年収1,000万円で、実際に計算する
では、噂の「年収1,000万円」で計算してみます。給料だけの人で、所得控除は基礎控除だけの概算です(実際には社会保険料控除などが入るので、税額はさらに下がります)。
まず、給料の収入から給与所得控除を引きます。収入850万円超の場合、給与所得控除は上限の195万円です。
8,500,001円以上 1,950,000円(上限)[3]
(抜粋)
次に、所得税の基礎控除を引きます。令和8・9年分の基礎控除は、合計所得金額に応じて段階的に決まります。合計所得金額655万円を超え2,350万円以下の人は62万円です[4]。この新しい額は、令和8年12月1日に施行されるので、令和8年分の年末調整・確定申告から反映されます[4]。
計算はこうなります。
- 課税総所得金額=1,000万円−195万円−62万円=743万円
- 所得税(速算表)=743万円×0.23−63.6万円=107万2,900円
- 復興特別所得税=107万2,900円×2.1%=約2万2,500円
- 住民税(所得割)=(805万円−43万円)×10%=76万2,000円。ここから調整控除2,500円を引いて75万9,500円
所得税と復興特別所得税、住民税を合わせて約185万5,000円です。課税所得743万円に対する負担率は25.0%、給料の収入1,000万円に対しては約18.5%です。
なお、住民税は所得税とは基礎控除の額が違います(43万円。地方税法314条の2[6])。また、住民税は前年の所得にかかるもので、均等割も別にかかります。ここでは、所得割だけの概算で計算しました。調整控除の根拠は、地方税法314条の6[7]などです。
この人の所得のうち、いちばん上の部分にかかる税率は23%+10%=33%で、噂の55%ではありません。全体の負担は18.5%で、「半分以上」とは大きく違います。
落とし穴① 「収入」と「所得」の混同
噂は「年収1,000万円=所得1,000万円」のように読めますが、これは別の概念です。所得税の税率は収入ではなく、所得に対してかかります。給与所得の金額は、収入から給与所得控除を引いて計算されます。
給与所得の金額は、その年中の給与等の収入金額から給与所得控除額を控除した残額とする[5]
(抜粋)
具体例で比べます。
| 人 | 給与収入 | 給与所得控除 | 所得 |
|---|---|---|---|
| Aさん | 1,000万円 | 195万円 | 805万円(基礎控除後743万円) |
| Bさん | 500万円 | 144万円 | 356万円(基礎控除後252万円) |
同じ「1,000万円」でも、収入か所得かで課税される額は変わります。Bさんの給与所得控除144万円は、収入500万円×20%+44万円で計算した額です[3]。
落とし穴② 「限界税率」と「平均税率」の混同
もう一つの混同は、税率そのものの読み間違いです。
- 限界税率=いま1円増えたとき、その1円にかかる税率
- 平均税率=税額全体を所得で割った、全体の負担率
課税所得743万円の人の限界税率は、所得税23%+住民税10%で33%です。しかし平均税率は、所得税だけで107万2,900円÷743万円=14.4%です。住民税を足しても25.0%です。噂の「55%」も限界税率です。課税所得4,000万円を超えた部分にだけかかります。
では、所得税と住民税を合わせた負担が半分を超えるのは、どのくらいの所得からでしょうか。次のとおりです。4,000万円と1億円の行は、基礎控除・調整控除が0円になる所得で計算しています(復興特別所得税を含む)。
| 課税所得 | 所得税・住民税の合計 | 負担率 |
|---|---|---|
| 743万円(年収1,000万円の例) | 約185万5,000円 | 25.0% |
| 4,000万円 | 約1,748万円 | 43.7% |
| 1億円 | 約5,105万円 | 51.0% |
55.945%がかかり始める4,000万円でも、全体の負担は43.7%です。全体で半分を超えるのは、課税所得約8,200万円を超えたあたりからです。なお、所得税だけでは、いくら所得が増えても半分には届きません(復興特別所得税を含めて最高45.945%)。
こうすればいい
- 「55%取られる」と聞いたら、それが所得のどこから上の部分にかかる税率かを確かめる。最高の税率(55.945%)は課税所得4,000万円を超えた部分だけにかかる。
- 税率を見るときは、それが「その部分にかかる限界税率」か「全体の負担率(平均税率)」かを確かめる。
- 「年収」で語られる噂は、給与所得控除と基礎控除を引いた「課税所得」に直して考える。
- 自分の課税所得がどの区分に当たるかは、国税庁の速算表(No.2260)で1回の計算で確認できる[2]。
- 正確な税額は、源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」と「所得控除後の金額」を見るか、確定申告書等作成コーナーで計算する。
まとめ
「年収1,000万円を超えると、所得の半分以上が税金で取られる」は、ウソです。噂の「55%」は、実は復興特別所得税を入れると55.945%と、もっと高い数字です。でも、この税率がかかるのは課税所得4,000万円を超えた部分だけです。年収1,000万円の給料だけの人では、いちばん上の部分にかかる税率は33%、全体の負担は年収の約18.5%です(所得控除は基礎控除のみの概算)。課税所得に対する負担が半分を超えるのは、課税所得約8,200万円を超えてからです。
累進課税は、所得をいくつかの区分に分けて、上の区分ほど高い税率をかける仕組みです。55.945%は、いちばん上の区分(課税所得4,000万円を超えた部分)にだけかかる税率です。その下の部分には、5%から40%の税率が区分ごとにかかります。そのため、最高の税率が55.945%でも、所得全体で見た負担はそれよりずっと低くなります。「税率○%」と聞いたら、所得のどこから上の部分にかかる税率かを確かめてください。
出典
- [1]所得税法第89条(e-Gov法令検索) 確認日:2026-10-08
- [2]国税庁 タックスアンサー No.2260「所得税の税率」 確認日:2026-10-08
- [3]国税庁 タックスアンサー No.1410「給与所得控除」 確認日:2026-10-08
- [4]国税庁 タックスアンサー No.1199「基礎控除」 確認日:2026-10-08
- [5]所得税法第28条(e-Gov法令検索) 確認日:2026-10-08
- [6]地方税法第314条の2(e-Gov法令検索) 確認日:2026-10-08
- [7]地方税法第314条の6(e-Gov法令検索) 確認日:2026-10-08
- [8]地方税法第35条(e-Gov法令検索) 確認日:2026-10-08(道府県民税の所得割の標準税率)
- [9]地方税法第314条の3(e-Gov法令検索) 確認日:2026-10-08(市町村民税の所得割の標準税率)
※ 本文は2026年10月8日時点の法令・公式情報に基づきます。出典は法令(e-Gov)と国税庁・自治体の公式ページのみを使用しています。公開後に訂正が生じた場合は、訂正記録をこの記事の末尾に掲載します(訂正ポリシー)。