条件つきホント

「会社員でも経費を引く方法はある」は本当?

掲載日:2026年10月27日
分野:経費・必要経費

「会社員でも、経費を引く方法はある」。そう聞いたことはありませんか?

仕事で使う本や文房具を買っても、会社員の税金は変わらない。そう説明されると、多くの人は納得してしまいます。給与所得の計算に、実際の経費を集めて引く手順は、たしかにありません。ところが所得税法には、条件を満たせば支出を差し引ける道が用意されています。使える人は限られます。それでも、方法はあります。

税金の言葉、先に5つだけ

この記事に出てくる言葉を、先にやさしく説明します。

  • 給与所得=会社などからもらう給与にかかる所得
  • 給与所得控除=給与収入から差し引く金額。収入に応じて決まります
  • 特定支出=通勤費など、職務に直接必要な支出のうち法令が定めたもの
  • 特定支出控除=特定支出が一定額を超えたときに使える控除
  • 必要経費=事業などの収入を得るために直接かかった費用

結論

  1. 給与所得の金額は、収入から給与所得控除を引いて計算します。実際の必要経費を集めて引く仕組みはありません(所得税法28条2項)。[1]
  2. ただし、特定支出控除という方法があります。特定支出の合計が給与所得控除額の2分の1を超えたとき、超えた部分を給与所得から引けます(同57条の2第1項)。[2]
  3. 対象は7種類の支出に限られ、会社などの証明が必要です。勤務必要経費は65万円までです(同条第2項・国税庁No.1415)。[2][3]
  4. 確定申告が必要で、年末調整では受けられません。給与所得控除額の2分の1を超える支出が要るので、使える人は限られます。[3]
  5. 副業が事業所得や雑所得なら、その所得では必要経費を引けます(同37条1項)。[5]

判定は「条件つきホント」です。会社員が経費を引く方法は、たしかにあります。ただし、給与所得から実際の経費をそのまま引くのではありません。特定支出控除という例外を使う形で、給与所得控除額の2分の1を超える支出と、会社などの証明が要ります。条件がそろった人には、方法があります。

給与所得は、収入から定額を引いて計算します

まず、給与所得の計算を条文で確かめます。

給与所得の金額は、その年中の給与等の収入金額から給与所得控除額を控除した残額とする。 [1]

(所得税法第28条第2項)[1]

訳すと、給与所得は「1年間の給与収入-給与所得控除」です。ここに必要経費という項目は出てきません。実際にかかった経費を集めて引く仕組みではない、ということです。

給与所得控除の額は、収入に応じて決まっています。国税庁の表では、令和8年分の控除額は、収入220万円までが74万円です。

(注1) 令和8年12月1日に施行され、令和8年分及び令和9年分に適用される金額です。 [4]

(国税庁「No.1410 給与所得控除」の注1)[4]

この表の金額は、令和8年12月1日から施行され、令和8年分と令和9年分に適用されます。令和7年分は、収入190万円までが65万円でした。同じ年分の表で計算する必要があります。

例外が、特定支出控除です

原則の話は、ここまでです。同じ法律の57条の2が、例外を定めています。

居住者が、各年において特定支出をした場合において、その年中の特定支出の額の合計額が第二十八条第二項(給与所得)に規定する給与所得控除額の二分の一に相当する金額を超えるときは、その年分の同項に規定する給与所得の金額は、同項及び同条第四項の規定にかかわらず、同条第二項の残額からその超える部分の金額を控除した金額とする。 [2]

(所得税法第57条の2第1項)[2]

少し堅いので訳すと、こうです。1年間の特定支出の合計が、給与所得控除額の2分の1を超えた場合に使えます。超えた部分だけを、給与所得から引けます。支出の全額を引けるわけではありません。

国税庁も、同じ仕組みを説明しています。

給与所得者が次の1から7の特定支出をした場合、その年の特定支出の額の合計額が、給与所得控除額の2分の1相当額を超えるときは、確定申告によりその超える部分の金額を給与所得控除後の所得金額から差し引くことができる制度があります。 [3]

(国税庁「No.1415 給与所得者の特定支出控除」)[3]

この制度を給与所得者の特定支出控除といいます。給与所得控除を引いたあとの金額から、さらに引く仕組みです。ただし引けるのは、超えた部分だけです。

対象になる支出は、7つに限られます

特定支出に入るのは、次の7種類です。どれも、職務の遂行に直接必要な支出でなければなりません。

区分対象になる支出金額の上限
通勤費通勤のための交通費。最も経済的で合理的な経路と方法に限るなし
職務上の旅費勤務する場所を離れて職務を行う旅行の費用なし
転居費転任に伴う引っ越しの費用なし
研修費職務に直接必要な技術や知識を得るための研修の費用なし
資格取得費職務に直接必要な資格を取るための費用なし
帰宅旅費単身赴任などの場合の、自宅との往復の費用なし
勤務必要経費図書費・衣服費・交際費など65万円

(国税庁「No.1415 給与所得者の特定支出控除」の一覧)[3]

7つ目の勤務必要経費には、上限があります。条文にも、65万円までと書かれています。

次に掲げる支出(当該支出の額の合計額が六十五万円を超える場合には、六十五万円までの支出に限る。)で、その支出がその者の職務の遂行に直接必要なものとして財務省令で定めるところにより給与等の支払者により証明がされたもの [2]

(所得税法第57条の2第2項第7号)[2]

訳すと、図書費・衣服費・交際費の合計は、65万円までです。書籍を100万円買っても、この枠に入るのは65万円までです。しかも、65万円がそのまま引けるわけではありません。次の節で計算します。

2分の1を超えなければ、控除は0円です

ここが、この制度のいちばんの関門です。控除の額は、特定支出の合計から、給与所得控除額の2分の1を引いた残りです。だから、2分の1に届かなければ、控除は0円です。次の表は、令和8年分の表で計算した例です。

例給与収入と給与所得控除額特定支出の合計引ける金額
Aさん500万円(控除144万円・2分の1は72万円)80万円8万円
Bさん200万円(控除74万円・2分の1は37万円)30万円0円

Aさんは、72万円を超えた8万円だけを引けます。Bさんは、37万円に届かないので、引ける金額は0円です。支出が30万円あっても、控除は受けられません。

給与所得控除額には、上限があります。収入850万円超なら195万円で、2分の1は97万5,000円です。年収が高い人ほど、超えるべき金額は大きくなります。100万円近い特定支出がないと、控除は受けられません。

特定支出控除を受けても、給与所得控除の額は減りません。ここも、混同しやすいところです。

通勤費は、全額ではありません

7種類のうち、いちばん身近なのが通勤費です。ただし、条件が細かく決まっています。

その者の通勤のために必要な交通機関の利用又は交通用具の使用のための支出で、その通勤の経路及び方法がその者の通勤に係る運賃、時間、距離その他の事情に照らして最も経済的かつ合理的であることにつき財務省令で定めるところにより給与等の支払者により証明がされたもののうち、一般の通勤者につき通常必要であると認められる部分として政令で定める支出 [2]

(所得税法第57条の2第2項第1号)[2]

訳すと、通勤費は、最も経済的で合理的な経路と方法の分だけが対象です。遠回りや、必要以上の距離は入りません。しかも、会社から補てんされた部分は除かれます。

また、その特定支出について、①給与の支払者から補てんされる部分があり、かつ、その補てんされる部分に所得税が課税されていない場合におけるその補てんされる部分 [3]

(国税庁「No.1415 給与所得者の特定支出控除」)[3]

会社が通勤費を補てんした部分は、所得税が課税されていなければ特定支出に入りません。非課税の通勤手当を会社から受け取っている人は、その分が除かれます。だから、通勤費で控除を受けるのは難しくなります。

使うには、証明と確定申告が要ります

7つの支出は、どれも会社などの証明が必要です。

なお、これらの7つの特定支出は、いずれもその支出がその方の職務の遂行に直接必要なものであることなどについて給与の支払者またはキャリアコンサルタントによって証明がされたものに限られます [3]

(国税庁「No.1415 給与所得者の特定支出控除」)[3]

訳すと、自分の判断だけでは足りません。会社が証明した支出だけが対象です。研修費と資格取得費は、キャリアコンサルタントの証明でも構いません。ただし、教育訓練に係る部分に限ります。教育訓練給付金が出た部分も、特定支出には入りません。

そして、この控除は年末調整では受けられません。

この特定支出控除を受けるためには、確定申告を行う必要があります。 [3]

(国税庁「No.1415 給与所得者の特定支出控除」)[3]

申告のときは、書類をそろえます。

その際、特定支出に関する明細書および、給与の支払者またはキャリアコンサルタントの証明書を申告書に添付するとともに、特定支出に係るその支出の事実および支出した金額を証する書類を申告書に添付または申告書を提出する際に提示してください。 [3]

(国税庁「No.1415 給与所得者の特定支出控除」)[3]

明細書、証明書、領収書などが必要です。証明が得られない支出は、対象になりません(研修費と資格取得費は、キャリアコンサルタントの証明を受ける道もあります)。2分の1の要件に加えて、この手続きも必要です。

副業が事業所得や雑所得なら、経費を引けます

もう1つ、見落としやすい道があります。会社員でも、給与以外の所得があれば、その所得では必要経費を引けます。

その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(事業所得の金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに雑所得の金額のうち第三十五条第三項(公的年金等の定義)に規定する公的年金等に係るものを除く。)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。 [5]

(所得税法第37条第1項)[5]

訳すと、事業所得や雑所得の計算では、その収入を得るために直接かかった費用を引けます。給与所得は、この規定の対象に入っていません。

たとえば、会社員が副業で物を売ったり、原稿を書いたりして事業所得がある場合です。仕入れや材料費、仕事用のパソコン代(高いものは何年かに分けて)は、その副業の必要経費になります。給与の計算とは、別々に行います。副業の所得が事業所得や雑所得なら、経費を引いた残りに税金がかかります。

経費と所得控除は、別のものです

「引ける」と聞いて、医療費控除を思い浮かべる人もいます。これは経費ではありません。所得から引く控除です。

その超える部分の金額(当該金額が二百万円を超える場合には、二百万円)を、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除する。 [6]

(所得税法第73条第1項。医療費控除の規定)[6]

医療費控除は、支払った医療費のうち一定額を超えた部分を、所得から引く控除です。支払った額をそのまま経費として引くものではありません。同じ「引く」でも、引く場所と計算が違います。経費は所得を出す段階で引き、所得控除は所得を出したあとに引きます。

こうすればいい

  1. その年に、7種類の特定支出に当たる支出があったかを確かめる
  2. その支出を会社が証明してくれるか、会社に確認する
  3. 国税庁の表で、その年分の給与所得控除額を調べる
  4. 給与所得控除額の2分の1を計算し、特定支出の合計と比べる
  5. 超えていれば、明細書・証明書・領収書を付けて確定申告をする
  6. 超えていなければ、特定支出控除は0円になる。申告しても控除は増えない

2分の1を超えない場合でも、医療費控除が使えることはあります。目的が違う控除なので、別に確かめてください。判断に迷ったときは、税務署または税理士に相談してください。

まとめ

「会社員でも経費を引く方法はある」は、条件つきで本当です。給与所得の金額は、収入から給与所得控除を引いて計算し、実際の経費を集めて引く仕組みではありません。ここは、変わりません。

そのうえで、方法は2つあります。1つは特定支出控除です。7種類の支出の合計が、給与所得控除額の2分の1を超えたときに使えます。超えた部分だけを引けるので、支出の全額は引けません。会社の証明と確定申告も必要です。もう1つは、給与以外の所得です。副業が事業所得や雑所得なら、その計算で必要経費を引けます。

条件は厳しいですが、道はあります。自分の支出が当てはまるか、まず7種類の表で確かめてください。

出典

※ 本文は令和8年10月26日現在の法令・公式情報に基づきます。出典は、法令(e-Gov)・国税庁の公式資料を基本としています。公開後に訂正が生じた場合は、訂正記録をこの記事の末尾に掲載します(訂正ポリシー)。

本記事は掲載日時点の法令・公式情報に基づく一般的な解説です。個別の事案については、お近くの税務署または税理士にご相談ください。