半分ホント

「医療費控除は10万円超じゃないと
もらえない」は本当?

掲載日:2026年10月5日
分野:医療費・所得控除

「医療費は10万円を超えないと、医療費控除はもらえない」。こんな話を耳にしたことはありませんか?

「10万円ちょうどじゃダメで、超えた分しか戻ってこないらしい」。「申告は年が明けてから、まとめてやるといいらしい」。セットで広がっているこの話、半分は本当で、半分は人によって間違いです。

この噂を、所得税法の原文と国税庁の公式情報まで遡って確かめました。

税金の言葉、先に4つだけ

この記事に出てくる言葉を、先にやさしく説明します。

  • 医療費控除=その年1月1日から12月31日に支払った医療費のうち、一定額を超える分を所得から差し引ける仕組みです。差し引くと税金が安くなります。
  • 総所得金額等=その年の所得の合計額です。もらったお金(収入)から必要な経費を引いた、「儲け」に近い額です。
  • 還付申告=払いすぎた税金を取り戻すための確定申告です。申告の義務がない人もできます。
  • しきい(足切り額)=医療費のうち、控除の計算で差し引かれる額のことです。10万円の人と、総所得金額等の5%の人がいます。

結論

  1. 「医療費が10万円を超えないと受けられない」は、総所得金額等が200万円以上の人のルールです。総所得金額等が200万円未満の人は、10万円ではなく「総所得金額等の5%」がしきいになります。[1][2]
  2. 「超えた分しか控除されない」は本当です。医療費の合計から、しきい(10万円または総所得金額等の5%相当額)と保険金などで補てんされる金額を差し引いた残りが、控除額になります。上限は200万円です。[1][2]
  3. 市販薬中心の人は、セルフメディケーション税制というもうひとつの選択肢があります。しきいは12,000円・上限88,000円で、通常の医療費控除とどちらか一方を選びます。[4][5]
  4. 「年が明けてからまとめて申告」も本当です。医療費控除は年末調整では受けられず、還付申告になります。その年の翌年1月1日から5年間、申告できます。[2][6]そして「10万円以下なら申告するだけ損」は、決めつけです。所得が200万円未満の人や市販薬が多い人は、10万円以下でも控除を受けられます。

判定は「半分ホント」です。「10万円」という数字と「申告するだけ損」の部分が間違いで、「超えた分しか戻らない」と「年が明けてからの申告」は本当です。

「10万円」の正体

まず法律の原文を見てみましょう。医療費控除は所得税法73条1項に書かれています。

居住者が、各年において、自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族に係る医療費を支払つた場合において、その年中に支払つた当該医療費の金額(保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより補てんされる部分の金額を除く。)の合計額がその居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額の百分の五に相当する金額(当該金額が十万円を超える場合には、十万円)を超えるときは、その超える部分の金額(当該金額が二百万円を超える場合には、二百万円)を、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除する。[1]

少し堅い文章なので訳します。この条文のしくみは、次の3段階です。

  1. しきいを計算する。総所得金額等の5%相当額を計算し、それが10万円を超えていれば、しきいは10万円に切り替わる。
  2. 医療費の合計(保険金などで補てんされる分を除く)がしきいを超えていれば、その超えた分が控除額になる。
  3. 控除額の上限は200万円である。

つまり「10万円」は、5%相当額が10万円を超えた人のための上限なのです。国税庁もタックスアンサーNo.1120で、同じ内容を次のように説明しています。

(注)その年の総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5パーセントの金額[2]

総所得金額等の5%が10万円になるのは、総所得金額等がちょうど200万円のときです。だから「総所得金額等200万円未満の人は5%がしきい、200万円以上の人は10万円がしきい」と割り切って覚えてかまいません。

10万円未満でも受けられる人

「10万円を超えないと絶対ダメ」が間違いである例を、2人で比べてみましょう。どちらも1年間の医療費は9万円(保険金などで補てんされる分はなし)です。

人総所得金額等しきい医療費控除の額
Aさん(会社員)350万円10万円(5%は17.5万円なので上限に切り替え)ゼロ(9万円はしきい未満)
Bさん(年金のみ)150万円7.5万円(150万円×5%)1万5千円(9万−7.5万)

2人の医療費は同じ9万円です。それでもBさんには1万5千円の医療費控除が認められます。Bさんの医療費は10万円に届いていませんが、しきいが10万円ではないので、控除を受けられます。

この差を生むのが「総所得金額等」です。収入が少ない年、退職して年金だけになった年、事業が赤字だった年などに、5%基準が有利にはたらきます。10万円という数字だけを覚えて諦めると、もらえるはずの控除を捨てることになります。

ここで、噂の「10万円以下なら申告するだけ損」に戻ります。この言い方には2つの誤りがあります。1つめは、総所得金額等200万円未満の人は10万円以下の医療費でも控除を受けられることです。2つめは、控除額がゼロになる人でも、申告すること自体が損にはならないことです。税負担が増えるわけではありません。控除額がゼロのときは、税金は戻りません。なお、市販薬をよく買う人には、セルフメディケーション税制という別の特例もあります。

なお、医療費を1円でも多く集める話ではありません。次の章で見る「差し引かれるお金」のほうが、金額への影響は大きいのです。

落とし穴① 差し引かれる2つのお金

「超えた分しか戻らない」の部分は、このとおり本当です。医療費の合計から差し引かれるお金は2つあります。

1つめは、保険金などで補てんされる金額です。国税庁のタックスアンサーNo.1120は、医療費控除の対象額を次の式で計算すると説明しています。

(実際に支払った医療費の合計額-(1)の金額)-(2)の金額[2]

(例) 生命保険契約などで支給される入院費給付金や健康保険などで支給される高額療養費・家族療養費・出産育児一時金など[2]

2つめが、(2)の金額=しきい(10万円または総所得金額等の5%相当額)です。

具体例で計算しましょう。総所得金額等300万円の人が、年間で医療費28万円を支払い、入院給付金10万円を受け取った場合です。

  • 医療費28万円−入院給付金10万円=18万円
  • 18万円−しきい10万円=8万円(医療費控除の額)

手元から支払った18万円のうち、控除になるのは8万円です。この「超えた分しか」の感覚は、噂どおりです。

注意点が1つあります。保険金は、その給付の目的となった医療費の金額を限度として差し引きます。引ききれない給付金があっても、他の医療費からは差し引きません[2]。

落とし穴② 医療費に含まれないもの

もうひとつの落とし穴は、「支払ったお金が全部医療費になるわけではない」ことです。所得税法73条2項は、医療費の範囲をこう定めています。

前項に規定する医療費とは、医師又は歯科医師による診療又は治療、治療又は療養に必要な医薬品の購入その他医療又はこれに関連する人的役務の提供の対価のうち通常必要であると認められるものとして政令で定めるものをいう。[1]

「通常必要であると認められるもの」という限定がついています。国税庁のタックスアンサーNo.1122は、対象になるものとならないものを具体例で示しています[3]。

対象になるもの(例)対象にならないもの(例)
医師・歯科医師の診療や治療の対価健康診断の費用、謝礼金(原則として対象外)
治療に必要な医薬品の購入代金ビタミン剤など病気の予防・健康増進のための医薬品
通院費(電車・バスなど)自家用車のガソリン代、駐車場代
医師等の診療や治療に直接必要な義手・義足・松葉杖・補聴器などの購入費[3]疲れを癒すためのマッサージ

対象にならないものを医療費に足して「10万円超えた」と勘違いすると、申告していても控除を否認されるおそれがあります。領収書をまとめるときに、この表で仕分けしておくと安心です。

申告は年が明けてから

医療費控除は年末調整では受けられません。申告書を自分で出す必要があります。申告義務のない人が払いすぎた税金を取り戻す手続きが、還付申告です。年の途中で会社を辞めた人も、還付申告の対象です[6]。

還付申告書は、確定申告期間とは関係なく、その年の翌年1月1日から5年間提出することができます。[6]

「年が明けてからまとめて申告するといい」という噂の部分は、正しい知識です。ただし5年間という期限があります。放っておくと、時効で還付を受けられなくなります。

市販薬が主なら セルフメディケーション税制

医療費の内訳が市販薬中心の人は、通常の医療費控除より先に検討したい制度があります。セルフメディケーション税制です。医療費控除の特例で、健康の保持増進や疾病の予防のための「一定の取組」(健康診断、予防接種、勤務先の定期健康診断など)をしている人が対象です[4]。

控除額は、対象の市販薬(スイッチOTC医薬品など)の購入費から12,000円を差し引いた金額で、上限は88,000円です[4]。足切りが12,000円と低いため、医療費がほとんど出ない年でも枠に届きやすくなります。

なお、この特例には期限があります。対象になるのは、2026年(令和8年)12月31日までに買った分までです。2027年以降は、税制改正しだいです[7]。

項目通常の医療費控除セルフメディケーション税制
しきい10万円、または総所得金額等の5%12,000円
控除上限200万円88,000円
対象治療にかかる医療費全般特定一般用医薬品等の購入費
条件なし「一定の取組」が必要

2つは選択適用で、両方は受けられません[5]。病院での治療費が大きい年は通常の医療費控除、風邪薬や目薬などの市販薬を年間を通じて買う人はセルフメディケーション税制が合いやすい、という目安になります。どちらが得かは内訳しだいなので、申告の前に両方の金額を計算して比べてください。選択は申告のときに行い、あとから更正の請求や修正申告で変更はできません[5]。

こうすればいい

年明けにやることを、3つのステップで整理します。

Step1 医療費を集計する

  • 1月1日から12月31日に支払った分だけを数えます。未払いは、現実に支払った年の医療費です。
  • 保険金などで補てんされる金額を控えます。高額療養費や出産育児一時金も該当します。
  • 対象外の費用(健康診断、予防のためのビタミン剤、自家用車のガソリン代など)は除きます。

Step2 しきいと控除額を計算する

総所得金額等しきい
200万円未満総所得金額等の5%相当額
200万円以上10万円

控除額=医療費の合計−保険金などで補てんされる金額−しきい、で計算します。上限は200万円です。

Step3 申告方法を選ぶ

  • 申告義務がある人(自営業など)は、確定申告のときに医療費控除を入れます。
  • 申告義務がない人(年末調整済みの会社員など)は、還付申告をします。その年の翌年1月1日から5年間、いつでも提出できます。
  • 市販薬の購入費が主な人は、セルフメディケーション税制とどちらが得か計算してから選びます。選択の変更はできません。

申告には「医療費控除の明細書」を確定申告書に添付します。領収書そのものの添付は不要になりましたが、税務署から提示を求められたら応じられるよう、申告期限などから5年間は保管してください。

まとめ

「医療費控除は10万円超じゃないともらえない」は、半分ホントです。10万円がしきいになるのは、総所得金額等が200万円以上の人です。200万円未満なら、総所得金額等の5%がしきいで、10万円未満の医療費でも控除が受けられます。「超えた分しか戻らない」のは本当で、しきいと保険金などで補てんされる金額を差し引いた残りが控除額です。申告は年末調整ではなく、年が明けてからの還付申告(5年間)で受けられます。市販薬が主な年は、しきい12,000円のセルフメディケーション税制が選択肢になります。

数字で覚え込んでいる税金のルールは、「その数字が誰に当てはまる数字か」を確かめ直すのがおすすめです。医療費控除の10万円は、条件のいい人に合わせた数字だった、という話でした。


出典

※ 本文は2026年10月5日時点の法令・公式情報に基づきます。出典は法令(e-Gov)と国税庁の公式ページのみを使用しています。公開後に訂正が生じた場合は、訂正記録をこの記事の末尾に掲載します(訂正ポリシー)。

本記事は掲載日時点の法令・公式情報に基づく一般的な解説です。個別の事案については、お近くの税務署または税理士にご相談ください。