「インボイス登録しないと
取引停止される」は本当?
「インボイスに登録しないと、もう取引できないと言われた」。フリーランスや個人事業者の間で、こんな不安の声を聞いたことはありませんか?
2023年10月のインボイス制度開始から3年。登録をめぐっては、「登録しないと取引を停止される」という話が広がってきました。取引を止めるかどうかは、法律では決まっていません。
この噂を、消費税法の条文と、国税庁・公正取引委員会の公式情報まで遡って確かめました。
税金の言葉、先に4つだけ
この記事に出てくる言葉を、先にやさしく説明します。
- インボイス=消費税額などを書いた請求書のこと。税務署に登録を受けた事業者(インボイス発行事業者。適格請求書発行事業者ともいいます)だけが発行できます。
- 免税事業者=基準期間(個人は2年前)の課税売上高が1,000万円以下で、消費税を納める義務が免除されている事業者です。
- 仕入税額控除=課税事業者が、仕入れや経費で払った消費税を、自分の納税額から差し引く仕組みです。原則としてインボイスの保存が必要です。
- 経過措置=免税事業者などからの仕入れでも、一定の割合を控除できるようにした期限つきのルールで、買い手の負担を軽くします。
結論
判定は「半分ホント」です。「法律で義務づけられている」という話は誤りです。「現実に登録を求められることがある」という話は正しいです。
法律は登録を強制していない
まず、登録のルールそのものを見てみましょう。消費税法57条の2第1項です(e-Gov法令検索)。
国内において課税資産の譲渡等を行い、又は行おうとする事業者であつて、第五十七条の四第一項に規定する適格請求書の交付をしようとする事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)は、税務署長の登録を受けることができる。[1]
(抜粋)
言い換えます。「インボイス(適格請求書)を交付したい事業者は、税務署長の登録を受ける ことができる」。つまり登録は権利です。義務ではありません。引用の括弧書きは、いま免税事業者である人でも、登録を受ければ課税事業者になる、という仕組みを表します。「登録しなければならない」という条文はありません。消費税法には、登録しない事業者との取引を禁じる条文も見当たりません。
免税事業者でいられるのも、法律上の権利です。消費税法9条1項はこう定めています。
事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が千万円以下である者(適格請求書発行事業者を除く。)については、第五条第一項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れにつき、消費税を納める義務を免除する。[2]
(抜粋)
基準期間(個人なら2年前、法人は前々事業年度)の課税売上高が1,000万円以下の事業者は、消費税を納める義務が免除されます。括弧書きのとおり、登録を受ければ課税事業者になりますが、受けるかどうかは本人の選択です。
ただし、登録を受けると消費税の申告と納税が始まります。インボイスを発行する側の負担が増えるのは事実です。だからこそ「登録するか、免税のままでいるか」は、計算して決めるべき話になります。
なぜ「登録してほしい」と言われるのか
法律が命じていないのに「登録しないと取引できない」という話が出るのは、買い手側に税負担が生じるからです。
課税事業者(消費税を納めている法人や個人)が仕入税額控除を受けるには、原則としてインボイスの保存が必要です。売り手からインボイスをもらって保存します。相手が登録していない免税事業者だと、インボイスをもらえません。もらえないと、その仕入れに払った消費税を全額は差し引けず、納税額が増えてしまいます。
もっとも、売り先によっては影響が出ない場合もあります。公正取引委員会などが公表したQ&Aには、こう書かれています。
免税事業者であり続けたとしても免税事業者の売上先が以下のどちらかに当てはまる場合は、取引への影響は生じないと考えられます。[8]
その2つとは、①売り先が消費者か免税事業者の場合、②売り先が簡易課税制度を適用している場合です。簡易課税は、売上税額にみなし仕入率を掛けて仕入税額を計算する制度で、インボイスの保存が要りません。Q&Aの(注)は、2割特例を適用している場合も同様としています。国税庁は、3割特例でも同じとしています[5]。
問題は、その先です。売り先が一般の課税事業者だと、控除できない分だけ負担が生じます。そこで「登録してほしい」「価格を見直したい」という相談が持ちかけられるわけです。こうした要請自体は違法ではありません。
課税事業者が、インボイス制度を踏まえて取引先の免税事業者に対し、課税事業者になるよう要請することがあります。このような要請を行うこと自体は、独占禁止法上問題となるものではありません。[8]
相談と、一方的な通告は違います。その線引きは、あとで詳しく見ていきます。
買い手の負担を軽くする経過措置
免税事業者との取引が急に不利にならないよう、法律には経過措置が用意されています。免税事業者からの仕入れでも、時限つきで一定割合の控除を認める仕組みです。国税庁の解説では、こう説明されています。
令和13年(2031年)9月末までは、インボイスの保存がなくても仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置が設けられています。[5]
この控除できる割合は、段階的に下がっていきます。根拠は、インボイス制度を導入した平成28年の改正法(平成28年法律第15号)の附則です。条文はやや複雑なので、国税庁の令和8年度税制改正特集の説明を引用します。
免税事業者などインボイス発行事業者以外の者から行った課税仕入れにつき、その一定割合を控除できる経過措置について、適用期限を2年間延長した上で、以下のとおり控除可能割合が見直されました。[4]
令和8年度改正で、期限は2年延び、割合が見直されました。現在のスケジュールは次のとおりです[3][4]。
| 期間 | 控除できる割合 |
|---|---|
| 令和5年10月1日〜令和8年9月30日 | 80%(終了) |
| 令和8年10月1日〜令和10年9月30日 | 70%(現在) |
| 令和10年10月1日〜令和12年9月30日 | 50% |
| 令和12年10月1日〜令和13年9月30日 | 30% |
| 令和13年10月1日以降 | 控除なし |
法律の原文でも確認できます。令和8年10月1日から令和13年9月30日までの仕入れについて、支払対価に7.8/110(軽減税率の仕入れは6.24/108)を掛けた金額に、期間ごとの割合(70%・50%・30%)を掛けた額を仕入税額とみなして控除する、と定められています(平成28年法律第15号附則53条1項)[3]。
この記事の公開日(2026年10月)は、70%控除の期間が始まった直後です。「8割控除」という言葉を耳にした人も多いはずですが、その期間は令和8年9月30日で終わりました。
令和8年10月1日以後に始まる課税期間(個人事業者は令和9年分)から、上限が加わります。1つの取引先(インボイス発行事業者以外)からの仕入れの合計が、1年(法人は1事業年度)で税込1億円を超えると、超えた部分は経過措置の対象外です。改正前の上限は10億円でした[4]。年1億円は、売上1,000万円以下の免税事業者からの仕入れとしては大きな額です。
経過措置がある以上、免税事業者からの仕入れでも、買い手は7割を控除できます。負担が残るのは3割分だけです。それなのに「免税事業者だから消費税分を全額値下げする」と一方的に通告することは、公正取引委員会が問題視している行為です[9]。
登録した場合の特例
「登録すると税負担が急に重くなる」という心配にも、負担を軽くする仕組みがあります。
1つ目は2割特例です。インボイス制度をきっかけに登録した小規模事業者は、納税額を軽くできます。
2割特例は、適格請求書発行事業者の令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間において、免税事業者(「課税選択届出書」の提出により課税事業者となった免税事業者を含みます。)が適格請求書発行事業者となる場合に適用することができます[6]
(抜粋)
納付税額が売上に係る消費税額の2割になる仕組みは、附則51条の2第2項にあります。売上税額の8割を特別控除できるため、納めるのは残りの2割です[10]。個人事業者なら、令和5年分から令和8年分までの最大4回使えます。令和8年分(2026年1月〜12月)が、個人事業者にとって最後の適用年です。
2つ目は、令和8年度改正で新設された3割特例です。国税庁の説明を引用します。
インボイス発行事業者の登録を受けたことにより免税事業者から課税事業者となった個人事業者に係る令和9年分・令和10年分の消費税の確定申告において納付税額を売上税額の3割とすることができる特例です。[4]
2割特例が終わった後も、個人事業者は令和9年分・令和10年分について、納税額を売上税額の3割にできます。登録を受けたことで免税事業者から課税事業者になった個人事業者が対象で、主な要件は3つです。個人事業者であること。基準期間(令和9年分なら令和7年)の課税売上高が1,000万円以下であること。インボイス発行事業者の登録を受けていることです[4]。
3つ目は、簡易課税への移行措置です。2割特例・3割特例を使った課税期間の翌課税期間から簡易課税を選ぶときは、届出書を出せる期限が延びます。本来は適用を受けたい課税期間の初日の前日までですが、その翌課税期間の申告期限までに出せば、その課税期間から簡易課税を選べます[4]。簡易課税は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下であることが条件で、選ぶと原則2年間は続ける必要があります[4]。
2割特例・3割特例・簡易課税は、受け取ったインボイスを保存しなくても仕入税額控除を受けられます[5]。登録後の事務負担は、思っているより軽く済む場合があります。
「取引停止」が問題になるライン
次は交渉のルールです。取引先から登録を求められたとき、どこから問題になるかは、公正取引委員会のQ&Aが示しています。
まず、取引をやめる自由そのものは認められています。
事業者がどの事業者と取引するかは基本的に自由ですが、例えば、取引上の地位が相手方に優越している事業者(買手)が、インボイス制度を踏まえて免税事業者である仕入先に対して、一方的に、免税事業者が仕入れ時に支払っていた消費税額も払えないような価格など著しく低い取引価格を設定し、不当に不利益を与えることとなる場合であって、これに応じない相手方との取引を停止した場合には、独占禁止法上問題となるおそれがあります。[8]
言い換えると次のとおりです。「どの相手と取引するか」は原則自由です。立場が上の買い手が著しく低い価格を一方的に押しつけ、それに応じない相手との取引を止めた場合は、優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題になり得ます。
とくに問題なのは、一方的な通告です。
しかし、課税事業者になるよう要請することにとどまらず、課税事業者にならなければ、取引価格を引き下げるとか、それにも応じなければ取引を打ち切ることにするなどと一方的に通告することは、独占禁止法上又は取適法上、問題となるおそれがあります。[8]
取適法とは、製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律のことです[8]。下請法の題名と内容を改めた法律です[11]。委託事業者が中小受託事業者に対し、代金の減額や買いたたきをすることを禁じています[8][11]。対象は、製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託・特定運送委託に当たる取引です[8]。さらに、委託事業者と中小受託事業者それぞれの資本金や従業員数が、法律の定める基準に当たる必要があります[11]。
公正取引委員会は令和5年5月、実際に注意を行った事例を公表しました。その考え方は、次のとおりです。
発注事業者(課税事業者)が、経過措置により一定の範囲で仕入税額控除が認められているにもかかわらず、取引先の免税事業者に対し、インボイス制度の実施後も課税事業者に転換せず、免税事業者を選択する場合に、消費税相当額を取引価格から引き下げるなどと一方的に通告することは、独占禁止法上又は下請法上問題となるおそれがあります。[9]
(抜粋。「下請法」は現在の取適法にあたります)
注意の対象は、イラスト制作業者とイラストレーター、農産物加工品製造販売業者と農家などでした[9]。
まとめると、線引きはこうです。
- 課税事業者になるよう要請すること=それ自体は問題なし
- 免税事業者の仕入れや経費の消費税も考えたうえで、双方が納得して価格を決め直すこと=問題なし
- 「登録しなければ値下げする、取引も止める」と一方的に通告すること、買い手の都合だけで著しく低い価格にすること=独占禁止法・取適法上の問題になり得る[8]
困ったときは、公正取引委員会や中小企業庁の相談窓口が使えます[8]。
AさんとBさんの場合
ここからは架空の2人で、選択肢を具体的に見てみます。どちらも売上1,000万円以下の事業者で、登録前は免税事業者でした。以下の消費税額は、地方消費税を含む10%で計算します。
| 人 | 状況 | 選んだ道 |
|---|---|---|
| Aさん:Webデザイナー | 売り先は法人が中心 | 登録して取引を続ける |
| Bさん:イラストレーター | 売り先は中小企業が中心 | 免税のまま、取引先と交渉 |
Aさんは制度開始時(令和5年10月)に登録しました。年商600万円(税抜)、売上に係る消費税額は60万円です。2割特例を使えば、令和8年分の納税額は12万円で済みます。令和9年分・令和10年分は3割特例で18万円です。インボイスを出せるので、法人の取引先は消費税を全額控除できます。税抜600万円の価格のまま、消費税60万円を上乗せして請求します。
Bさんは登録せず、免税事業者のままです。取引先の中小企業は、経過措置で仕入れの消費税相当額の7割を控除できます。Bさんの年商は500万円(税抜)です。消費税相当額は50万円なので、取引先の負担は3割分の15万円です。令和9年分では、登録した場合のBさんの納税額と、免税のままの場合の取引先の負担は、どちらも年15万円です。取引先から「登録してほしい」と相談があったら、Bさんはこう考えられます。
- 登録する場合:納税額は、売上の消費税額の2割(2割特例・令和8年分まで)か3割(3割特例・令和9年分と令和10年分)。3割なら年15万円です。価格に消費税分を上乗せできるか交渉する
- 免税のままでいる場合:取引先の負担は年15万円(70%控除の期間中。割合が下がると負担は増える)。その分を価格交渉で調整する余地がある
もし取引先が交渉に応じず、「登録しなければ消費税分を全額値下げする」と一方的に通告してきたら、それは前の章(『取引停止』が問題になるライン)で見た、独占禁止法や取適法上の問題になるおそれのある行為です。公正取引委員会の相談窓口などに相談できます。
AさんとBさんのどちらが正解とは、一概に言えません。売り先の種類、業種のみなし仕入率、価格交渉の余地で答えは変わります。
こうすればいい
免税事業者が登録を考えるときは、次の順番で確認するのがおすすめです。
| 確認 | ポイント |
|---|---|
| 売り先は誰か | 消費者・免税事業者・簡易課税の相手なら、登録しなくても影響は出にくい |
| 登録したら税額はいくらか | 2割特例(令和8年分まで)・3割特例(令和9年分・令和10年分)・簡易課税で見積もる |
| 価格交渉の余地はあるか | 消費税分の全部か一部を価格に反映できないか、先に相談する |
買い手側(発注する側)の事業者には、次の選択肢があります。
| 仕組み | 内容 |
|---|---|
| 経過措置 | 免税事業者からの仕入れも7割控除(令和8年10月から令和10年9月まで) |
| 少額特例 | 1回の取引が税込1万円未満の仕入れは、一定の事項を書いた帳簿の保存だけで控除できる。基準期間の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5千万円以下の事業者が対象で、令和11年9月30日まで |
少額特例は、取引先がインボイス発行事業者かどうかを問いません。免税事業者からの仕入れにも使えます。1万円未満かどうかは、1回の取引の税込金額で判定します[7]。相手を変えずに、特例で全額控除できる場合があります。
少額特例とは、少額(税込1万円未満)の課税仕入れについて、インボイスの保存がなくとも一定の事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除ができる制度をいいます。[7]
最後に、売り手にも買い手にも大事なことです。「登録しないと取引しない」と言われたら、その場で承諾する前に、取引先の要望の理由を確かめてください。納得できる相談なら応じ方を一緒に決められます。一方的な通告なら、相談窓口があります。
まとめ
「インボイス登録しないと取引停止される」は、半分ホントです。登録は事業者の判断に任されていて、法律は取引停止も命じていません。
一方で、一般課税の取引先が、登録していない事業者からの仕入れで仕入税額控除を全額受けられなくなるのは事実です。経過措置で7割は控除できます。今後、割合は5割、3割と下がっていきます。負担が残る分だけ、登録や価格の相談を持ちかけられる現実はあります。
だからこそ、この話は「登録するか免税か」を自分で計算して選ぶ問題です。売り手には2割特例・3割特例・簡易課税、買い手には少額特例があります。立場の差や取引の内容によっては、「取引を止めるぞ」という一方的な通告が、独占禁止法や取適法の問題になり得ます。噂だけで判断する前に、条文と公式情報、そして自分の数字を確認してください。
出典
- [1]消費税法第57条の2(e-Gov法令検索) 確認日:2026-10-04
- [2]消費税法第9条(e-Gov法令検索) 確認日:2026-10-04
- [3]e-Gov法令検索 消費税法 附則(平成28年3月31日法律第15号)第52条・第53条(法令ページの「附則(平成二八年三月三一日法律第一五号)」の節) 確認日:2026-10-04
- [4]国税庁「令和8年度税制改正特集(インボイス経過措置の見直し等)」 確認日:2026-10-04
- [5]国税庁「インボイス制度について」 確認日:2026-10-04
- [6]国税庁「消費税のインボイス制度・軽減税率制度に関するQ&A」問116(PDF) 確認日:2026-10-05
- [7]国税庁 確定申告書等作成コーナー(令和7年分)よくある質問「少額特例とは」 確認日:2026-10-05
- [8]公正取引委員会ほか「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」 確認日:2026-10-04
- [9]公正取引委員会「インボイス制度の実施に関連した注意事例について」(PDF) 確認日:2026-10-04
- [10]e-Gov法令検索 消費税法 附則(平成28年3月31日法律第15号)第51条の2(附則の位置は[3]と同じ) 確認日:2026-10-05
- [11]製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法)第2条・第5条(e-Gov法令検索) 確認日:2026-10-05
※ 本文は2026年10月5日時点の法令・公式情報に基づきます。出典は法令(e-Gov)と、国税庁・公正取引委員会の公式ページのみを使用しています。公開後に訂正が生じた場合は、訂正記録をこの記事の末尾に掲載します(訂正ポリシー)。