「契約書は5万円未満なら印紙不要」は本当?
「契約書に貼る収入印紙、5万円未満の契約なら要らないらしい。金額の小さい契約は、印紙なしでサインしても大丈夫そうだ」。不動産の売買でも、お店の看板の制作でも、契約書を交わす機会はあります。印紙が要るかどうかは、いったいどこで決まるのでしょうか?
税金の言葉、先に4つだけ
この記事に出てくる言葉を、先にやさしく説明します。
- 印紙税=契約書などの文書に、収入印紙を貼って納める税金です。
- 課税文書=印紙税のかかる文書です。印紙税法の別表第一に種類が並んでいます。
- 記載金額=契約金額など、文書に書かれた金額です。印紙の額はこの金額で決まります。
- 軽減措置=期限つきで、本来より税額を引き下げる制度です。
結論
判定は「ウソ」です。契約書だからといって、金額5万円で印紙の要否が決まる仕組みにはなっていません。次から、根拠を順に見ていきます。
印紙税がかかるのは「課税文書」に限ります
印紙税は、すべての契約書にかかるわけではありません。印紙税法第3条は、印紙税のかかる文書を次の形で定めています。
別表第一の課税物件の欄に掲げる文書のうち、第五条の規定により印紙税を課さないものとされる文書以外の文書(以下「課税文書」という。)の作成者は、その作成した課税文書につき、印紙税を納める義務がある。[1]
(印紙税法第3条第1項)
訳すと、こうなります。印紙税のかかる文書(課税文書)は、印紙税法の別表第一に種類ごとに並んでいます。その表に当てはまらない文書には、印紙税はかかりません。逆に、表に当てはまる文書なら、名称が「契約書」かどうかにかかわらず、印紙の用意が必要です。まず、ここが出発点です。
記載金額で決まる。線は「1万円」
では、課税文書に当てはまる契約書は、いつなら印紙なしで済むのでしょうか。印紙税法別表第一の第1号は、不動産の譲渡などを含む契約書について、記載金額ごとの税額を定めています。
1契約金額の記載のある契約書 次に掲げる契約金額の区分に応じ、一通につき、次に掲げる税率とする。 十万円以下のもの 二百円 十万円を超え五十万円以下のもの 四百円 五十万円を超え百万円以下のもの 千円 百万円を超え五百万円以下のもの 二千円[2]
(印紙税法別表第一第1号・税率欄を抜粋)
さらに、同じ第1号の非課税物件の欄には、印紙が要らない場合も書かれています。
1契約金額の記載のある契約書(課税物件表の適用に関する通則3イの規定が適用されることによりこの号に掲げる文書となるものを除く。)のうち、当該契約金額が一万円未満のもの[2]
(印紙税法別表第一第1号・非課税物件欄)
訳すと、こうなります。不動産の譲渡に関する契約書は、記載金額が1万円未満なら印紙は不要です。1万円以上なら、10万円以下のときは200円、400万円なら2,000円というように、金額の区分で税額が決まります。
この「記載金額が1万円未満なら非課税」という定めは、請負に関する契約書(別表第一第2号)にも、同じ形で置かれています。
1契約金額の記載のある契約書 次に掲げる契約金額の区分に応じ、一通につき、次に掲げる税率とする。 百万円以下のもの 二百円 百万円を超え二百万円以下のもの 四百円 二百万円を超え三百万円以下のもの 千円[2]
(印紙税法別表第一第2号・税率欄を抜粋)
1契約金額の記載のある契約書(課税物件表の適用に関する通則3イの規定が適用されることによりこの号に掲げる文書となるものを除く。)のうち、当該契約金額が一万円未満のもの[2]
(印紙税法別表第一第2号・非課税物件欄)
つまり、印紙が要らないかどうかの線は「5万円」ではなく「1万円」です。不動産や請負の契約書では、記載金額1万円以上で、原則として200円以上の印紙が必要になります。
ただし、「1万円未満なら非課税」は、すべての課税文書に共通の決まりではありません。例えば、特約店契約書や銀行取引約定書など、継続的取引の基本となる契約書(別表第一第7号)は、記載金額に関係なく一通につき4,000円です。ただし、契約期間の記載があってその期間が3か月以内で、更新に関する定めのない契約書は除きます[2]。
ところで、噂の「5万円」という線は、どこから来たのでしょうか。領収書に当たる「受取書」(別表第一第17号)には、記載された受取金額が5万円未満なら印紙が要らないという非課税の定めがあります。この話が、契約書のほうに混ざって広まったと考えられます。
1 記載された受取金額が五万円未満の受取書[2]
(印紙税法別表第一第17号・非課税物件欄)
電子契約書には印紙が要らない
印紙がかかるのは「文書」だけです。パソコンやスマートフォンでやり取りする電子契約は、印紙税法の言葉では「文書」ではなく「電磁的記録」なので、印紙は不要です。この理屈は、次の3つの一次資料で確認できます。
まず、印紙税法上の「作成」の意味です。
法に規定する課税文書の「作成」とは、単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう。[5]
(印紙税法基本通達第44条第1項)
訳すと、こうなります。印紙がかかる「作成」は、紙の文書に記載して、その目的どおりに行使することです。国税庁は、電子メールで送った注文請書(電磁的記録)について、次のとおり回答しています。
印紙税の課税対象となるのは、課税物件表の物件名欄に掲げられている文書であり、電磁的記録は文書に含まれません。したがって、おたずねの電磁的記録に印紙税は課税されません。[6]
(国税庁「法令等質疑応答事例 取引先にメール送信した電磁的記録に関する印紙税の取扱い」・回答要旨)
ただし、紙に戻すと話が変わります。福岡国税局の文書回答事例(注文請書を電磁的記録に変換して電子メールで送った事例)では、次のとおりです。
ただし、電子メールで送信した後に本注文請書の現物を別途持参するなどの方法により相手方に交付した場合には、課税文書の作成に該当し、現物の注文請書に印紙税が課されるものと考える。[7]
(福岡国税局の文書回答事例・平成20年10月24日・照会者の見解。国税局の回答は「ご照会に係る事実関係を前提とする限り、貴見のとおりで差し支えありません」)
訳すと、こうなります。PDFを印刷して紙にして相手に手渡すと、その時点で「用紙等に記載して行使した」ことになり、課税文書の作成です。印紙が必要になります。逆に、電子契約サービスで電磁的記録のまま締結すれば、印紙は不要です。
400万円の家の売買と30万円の看板制作、印紙はいくら
同じ「契約書」でも、文書の種類によって印紙の額の決まり方が違います。架空の2人で見てみます。
| 人物 | 契約書 | 記載金額 | 印紙 |
|---|---|---|---|
| Aさん | 中古住宅の売買契約書(不動産の譲渡・第1号) | 400万円 | 1,000円(軽減措置あり。なければ2,000円) |
| Bさん | 看板制作の請負契約書(請負・第2号) | 30万円 | 200円(軽減措置の対象外) |
2人とも印紙は必要です。額が違うのは、軽減措置がAさんの契約書にだけかかるからです(次の章)。Bさんの契約書のような請負は、軽減措置が建設工事の請負に限られているため、本来の税額200円となります。
軽減措置は「令和9年3月31日まで」
不動産の譲渡に関する契約書と、建設工事の請負に関する契約書では、期限つきで税額が軽減されています。根拠は、租税特別措置法第91条です。
平成二十六年四月一日から令和九年三月三十一日までの間に作成される印紙税法別表第一第一号の物件名の欄1に掲げる不動産の譲渡に関する契約書(一の文書が当該契約書と当該契約書以外の同号に掲げる契約書とに該当する場合における当該一の文書を含む。以下この項及び次条第一項において「不動産譲渡契約書」という。)のうち、当該不動産譲渡契約書に記載された契約金額が十万円を超えるものに係る印紙税の税率は、同号の規定にかかわらず、次の各号に掲げる契約金額の区分に応じ、一通につき、当該各号に定める金額とする。 一 十万円を超え五十万円以下のもの 二百円 二 五十万円を超え百万円以下のもの 五百円 三 百万円を超え五百万円以下のもの 千円 四 五百万円を超え千万円以下のもの 五千円[3]
(租税特別措置法第91条第1項・税率の一部を抜粋)
訳すと、こうなります。令和9年3月31日までに作成される不動産譲渡契約書のうち記載金額が10万円を超えるものは、別表第一の本来の税額の代わりに、この表の軽減した税額を納めます。400万円のAさんの契約書なら、本来の2,000円が1,000円になります。
建設工事の請負についても、同じ期間の軽減が定められています。
平成二十六年四月一日から令和九年三月三十一日までの間に作成される印紙税法別表第一第二号に掲げる請負に関する契約書(建設業法第二条第一項に規定する建設工事の請負に係る契約に基づき作成されるものに限る。以下この項及び次条第一項において「建設工事請負契約書」という。)のうち、当該建設工事請負契約書に記載された契約金額が百万円を超えるものに係る印紙税の税率は、同号の規定にかかわらず、次の各号に掲げる契約金額の区分に応じ、一通につき、当該各号に定める金額とする。[3]
(租税特別措置法第91条第2項)
国税庁も、軽減措置の期間を次の形で説明しています。
平成26年4月1日から令和9年3月31日までの間に作成される、次の2種類の契約書について印紙税の税額が軽減されます。[4]
(国税庁タックスアンサー「No.7108 不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置」)
落とし穴
知っておきたい落とし穴が、2つあります。
1つ目は、「5万円」の線を信じて印紙を貼らないことです。不動産や請負の契約書なら、記載金額1万円以上で印紙が必要です。例えば記載金額5万円の不動産の売買契約書は、軽減措置の対象外(10万円以下)で、税額は200円です。国税庁の説明では、次のとおりです。
不動産の譲渡に関する契約書のうち、その契約書に記載された契約金額が10万円以下のものは、軽減措置の対象となりません(税額200円)。また、契約書に記載された契約金額が10,000円未満のものは非課税となります。[4]
(国税庁タックスアンサー「No.7108 …」・注)
建設工事の請負に関する契約書のうち、その契約書に記載された契約金額が100万円以下のものは、軽減措置の対象となりません(税額200円)。また、契約書に記載された契約金額が10,000円未満のものは非課税となります。[4]
(同上)
さらに、契約金額の記載のない契約書にも、一通につき200円の定めがあります。
2契約金額の記載のない契約書 一通につき二百円[2]
(印紙税法別表第一第1号・第2号の税率欄)
2つ目は、軽減措置を「いつもの税額」と覚えてしまうことです。軽減は令和9年3月31日までの期限つきです。期限を過ぎて作成する契約書は、別表第一の本来の税額に戻ります。400万円の不動産の売買契約書なら、軽減中の1,000円が2,000円になります。契約書を作成する日がいつになるかを確認してから、印紙の額を決めてください。
こうすればいい
| 状況 | 考えること |
|---|---|
| 不動産の売買や工事の依頼で契約書を作る | 記載金額を確認します。1万円未満なら印紙は不要です[2] |
| 記載金額が1万円以上ある | 文書の種類に応じた税額を確認します。原則200円から必要です[2] |
| 不動産の譲渡(10万円超)・建設工事の請負(100万円超)の契約書 | 令和9年3月31日までに作成すれば軽減措置の対象です[3][4] |
| 契約を電子で締結する | 電磁的記録のままなら印紙は不要です。PDFを印刷して紙で交付すると印紙が必要になります[5][7] |
| 課税文書かどうか迷ったら | 税務署の相談窓口で相談できます |
まとめ
「契約書は5万円未満なら印紙不要」は、ウソです。
- 印紙税は、課税文書に当てはまる文書にだけかかります。契約書に5万円という線はありません。5万円未満で印紙が要らないのは、領収書(受取書)の話です[1][2]。
- 不動産の譲渡や請負の契約書は、記載金額1万円未満なら印紙は不要です。ただし、継続的取引の基本となる契約書は、金額に関係なく1通につき4,000円です[2]。
- 不動産の譲渡や建設工事の請負の契約書には、令和9年3月31日までの軽減措置があります[3][4]。
- 電子契約(電磁的記録)には印紙がかかりません。ただし、PDFを印刷して紙で交付すると、課税文書の作成になります[5][6][7]。
まず契約書の記載金額を確かめて、次に文書の種類が課税文書のどれに当てはまるかを見てください。印紙の要否は、その2つで決まります。
出典
- [1]印紙税法第3条(e-Gov法令検索) 確認日:2026-10-13
- [2]印紙税法別表第一(e-Gov法令検索) 確認日:2026-10-13
- [3]租税特別措置法第91条(e-Gov法令検索) 確認日:2026-10-13
- [4]No.7108 不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置 — 国税庁タックスアンサー 確認日:2026-10-13
- [5]印紙税法基本通達第44条(国税庁) 確認日:2026-10-13
- [6]法令等質疑応答事例 取引先にメール送信した電磁的記録に関する印紙税の取扱い — 国税庁 確認日:2026-10-13
- [7]文書回答事例 請負契約に係る注文請書を電磁的記録に変換して電子メールで送信した場合の印紙税の課税関係について — 福岡国税局 確認日:2026-10-13
※ 本文は2026年10月13日時点の法令・公式情報に基づきます。出典は、法令(e-Gov)・国税庁の公式資料を基本としています。公開後に訂正が生じた場合は、訂正記録をこの記事の末尾に掲載します(訂正ポリシー)。