「法人で赤字が出ても青色申告であれば10年相殺できる」は本当?
「法人で赤字が出ても、青色申告であれば10年相殺できる」。会社の経営者なら、こんな話を耳にしたことがあるかもしれません。この「10年」がどこまで当てはまるのか、税法の条文で確かめました。
なお、「相殺」は世間での言い方です。税法では「繰越控除」といい、その年の所得から差し引くことを指します。この記事では、以降は「繰越控除(その年の所得から差し引くこと)」と書きます。
税金の言葉、先に5つだけ
この記事に出てくる言葉を、先にやさしく説明します。
- 青色申告(あおいろしんこく)=税務署長の承認を受けて、青色の申告書で出す申告です。個人では、不動産所得・事業所得・山林所得がある人が使えます。
- 純損失(じゅんそんしつ)=個人の赤字のうち、損益通算をしても引ききれなかった部分です。
- 欠損金(けっそんきん)=法人の赤字のことです。
- 繰越控除(くりこしこうじょ)=その年の赤字を翌年以後に持ち越して、その年の所得から差し引くことです。
- 中小法人等=普通法人のうち資本金の額が1億円以下のもの、資本や出資のないもの、公益法人等、協同組合等などの総称です。100%子法人等と大通算法人は除かれます(大企業の子会社は、資本金1億円以下でも中小法人等に当たりません)。
結論
判定は「条件つきホント」です。法人の赤字(欠損金)は、その事業年度開始の日前10年以内に開始した事業年度のものまで、その事業年度の所得から差し引けます(平成30年4月1日前に始まった事業年度の赤字は9年です)[4][6]。ただし、赤字が出た事業年度の確定申告書を青色申告書で出すこと、その後も毎年確定申告書を出し続けること、帳簿書類を保存していることが条件です[6]。中小法人等以外の法人は、その事業年度の所得金額の50%までです[6]。
「青色申告」は、個人にも法人にもある言葉です。個人の青色申告で繰り越せるのは3年で、年数が違います[1][5]。個人の話は、後の「注意」で説明します。
法人は、10年です
法人の法人税では、法人税法第57条が繰越しを定めています。年数は「前十年以内」です。
内国法人の各事業年度開始の日前十年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額[4]
訳すと、こうなります。法人(内国法人)の欠損金は、その事業年度の開始の日前10年以内に開始した事業年度のものまで、所得から引けます。[4]
国税庁の説明も同じです。
確定申告書を提出する法人の各事業年度開始の日前10年(注)以内に開始した事業年度で青色申告書を提出した事業年度に生じた欠損金額は、各事業年度の所得金額の計算上損金の額に算入されます。[6]
国税庁の説明では、10年と書かれています。かっこの注には、平成30年4月1日前に開始した事業年度の赤字は9年だと書かれています。[6]
法人にも、使うための条件があります。
欠損金額が生じた事業年度において青色申告書である確定申告書を提出し、かつ、その後の各事業年度について連続して確定申告書を提出するとともに、その事業年度に係る一定の帳簿書類(注1)を保存している法人です。[6]
訳すと、こうなります。赤字が出た事業年度を青色申告で出し、その後も続けて確定申告書を出し、帳簿書類を保存している法人が使えます。[6]
法人では、赤字が出た年が青色申告であれば、その後は白色申告でも、その赤字の繰越控除を使えます。
欠損金額が生じた事業年度において青色申告書である確定申告書を提出していれば、その後の事業年度について提出した確定申告書が白色申告書であっても、その欠損金額についてはこの繰越控除の規定の対象となります。[6]
訳すと、こうなります。赤字が出た事業年度の申告を青色で出しておけば、その後の申告が白色でも、その赤字は繰り越せます。[6]
また、法人のうち中小法人等以外の法人は、繰り越した赤字を全部は引けません。その事業年度の所得金額の50%が限度です。
(4)平成30年4月1日から開始事業年度:100分の50[6]
国税庁が示す率の表のうち、今の事業年度の行です。この率を、繰越控除をする事業年度の、繰越控除前の所得金額に掛けた金額が限度になります。[6]
この「中小法人等」からは、100パーセント子法人等と大通算法人が除かれます。資本金1億円以下でも、大企業の子会社は中小法人等に当たらず、50%の制限を受けます[6]。
中小法人等とは、普通法人(投資法人、特定目的会社および受託法人を除きます。)のうち、資本金の額もしくは出資金の額が1億円以下であるもの(100パーセント子法人等(※1)および大通算法人(※2)を除きます。)または資本もしくは出資を有しないもの、公益法人等、協同組合等、人格のない社団等をいいます。[6]
国税庁の注のとおりです。資本金1億円以下でも、100%子法人等と大通算法人は中小法人等から外れます。[6]
50%の制限には、例外があります。設立から7年を経過する日までの新設法人(普通法人のうち、100パーセント子法人等と株式移転完全親法人を除きます。)や、更生手続開始の決定などの一定の事実が生じた法人の一定の事業年度は、この制限の対象外です[6]。
法人にも、繰越しに代えて前の事業年度へ戻す方法(欠損金の繰戻しによる還付)があります。欠損金を、その事業年度の開始の日前1年以内に開始したいずれかの事業年度に繰り戻して、法人税の還付を請求できます[7]。ただし、この制度は中小企業者等以外の法人には、原則として使えません[7]。
青色申告書である確定申告書を提出する事業年度に欠損金額が生じた場合(以下、この事業年度を「欠損事業年度」といいます。)において、その欠損金額をその欠損事業年度開始の日前1年以内に開始したいずれかの事業年度(以下「還付所得事業年度」といいます。)に繰り戻して法人税額の還付を請求することができます。[7]
国税庁の説明のとおりです。法人の欠損金は、前1年以内に開始した事業年度に繰り戻して、法人税の還付を請求できます。[7]
この制度は、中小企業者等(注)以外の法人の平成4年4月1日から令和10年3月31日までの間に終了する各事業年度において生じた欠損金額については適用しないこととされています[7]
中小企業者等以外の法人は、原則として使えません。対象になる法人の範囲は No.5763 の「中小企業者等」で、No.5762 の「中小法人等」とは定義が少し違います。[7]
個人の青色申告は、3年です
個人の所得税では、所得税法第70条が繰越控除を定めています。年数は「前年以前三年内」です。
その年の前年以前三年内の各年(その年分の所得税につき青色申告書を提出している年に限る。)において生じた純損失の金額[1]
訳すと、こうなります。赤字(純損失)を繰り越せるのは、その年の前年以前3年以内の各年です。かっこの中にあるとおり、その年分を青色申告書で出していることが条件です。[1]
数え方は、赤字が出た年の翌年から3年間です。たとえば令和8年に赤字が出たときは、令和9年・令和10年・令和11年の3年間にわたって、その赤字を利益から引けます。
国税庁の説明も同じです。
その損失額を翌年以後3年間にわたって繰り越して、各年分の所得金額から控除します。[5]
国税庁の説明では、3年間と書かれています。[5]
使えるのは、青色申告をしている人だけです。青色申告は、税務署長の承認を受けて使える制度です。
不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務を行なう居住者は、納税地の所轄税務署長の承認を受けた場合には、確定申告書及び当該申告書に係る修正申告書を青色の申告書により提出することができる。[2]
訳すと、こうなります。個人事業主などのうち、税務署長の承認を受けた人が、青色の申告書を出せます。[2]
使い分けの落とし穴
まず、言葉と年数を並べます。
| 場面 | 使う言葉 | 繰り越せる年数 |
|---|---|---|
| 法人の申告(法人税) | 欠損金 | 10年[4][6] |
| 個人の確定申告(所得税) | 純損失 | 3年[1][5] |
このほかに、6つの注意があります。
1つ目は、「青色申告」という言葉が個人にも法人にもあることです。この記事の10年は法人の年数で、個人の青色申告は3年です。個人事業主には当たりません[1][4][5]。
2つ目は、法人の10年が、平成30年4月1日以後に開始する事業年度からだということです。それより前に出た赤字は9年です[6]。
3つ目は、法人のうち中小法人等以外の法人は、その事業年度の所得金額の50%までしか引けないことです[6]。
4つ目は、個人には、繰越しに代えて前年へ戻す方法があることです。前年も青色申告なら、前年分の所得税の還付を請求できます[3][5]。
純損失の繰越しに代えて、その損失額を生じた年の前年分の所得金額に繰り戻して控除し、前年分の所得税額の還付を受けることもできます。[5]
訳すと、こうなります。前年も青色申告をしている人は、繰越しの代わりに、前年分の所得税の還付を受けられます。[5]
5つ目は、災害のときは、個人の3年が5年になる場合があることです。
令和5年4月1日以降に特定非常災害の指定を受けた災害より生じた純損失の金額につき、以下の場合には、次の損失額について繰越控除期間が3年間から5年間へと延長されます。[5]
訳すと、こうなります。特定非常災害の指定を受けた災害による赤字は、条件を満たすと5年間繰り越せます。条件は細かく決まっているので、国税庁のページで確かめてください。[5]
6つ目は、赤字の会社を引き継いだときに、それまでの赤字が使えなくなる場合があることです。他の者に株式の50%超を保有される関係(特定支配関係)になってから5年以内に、それまでの事業を全部やめて、その事業規模のおおむね5倍を超える借入れなどを行うと、その前の赤字は繰り越せなくなります(欠損等法人の制限)[6]。
ただし、他の者による特定支配関係(注2)を有することとなった欠損金額等を有する法人(欠損等法人)が、その特定支配関係を有することとなった日(以下「特定支配日」といいます。)から5年以内に、旧事業(特定支配日の直前において営む事業)のすべてを廃止するとともに、その旧事業の事業規模のおおむね5倍を超える資金の借入れ等を行うことなどの一定の事由に該当するときは、その該当する日の属する事業年度(以下「適用事業年度」といいます。)以後の各事業年度においては、その適用事業年度前の各事業年度に生じた欠損金額については、この繰越控除の規定は適用されません。[6]
訳すと、こうなります。赤字のある会社が、他の者に50%超を保有される関係になってから5年以内に、それまでの事業を全部やめて、その事業規模のおおむね5倍を超える借入れなどを行うと、その前の赤字は繰り越せなくなります。[6]
年数以外にも、要件があります
年数は、赤字の種類と法律で決まります。それとは別に、次の要件も満たす必要があります。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 青色申告書で出した年の赤字であること | 個人は「その年分の所得税につき青色申告書を提出している年に限る」とされています。法人は、赤字が出た事業年度の確定申告書を青色申告書で出します。[1][6] |
| 確定申告書を出していること | 純損失が出た年分の確定申告書を出し、その後も連続して確定申告書を出している場合に限り、適用されます。[1]法人も、赤字が出た事業年度の後、毎年続けて確定申告書を出します。[6] |
| 帳簿書類を保存していること | 法人は、その事業年度に係る一定の帳簿書類を保存していることが条件です。[6] |
| 繰り越せる期間の中であること | 個人は前年以前3年以内、法人は前10年以内です。[1][4] |
なお、個人は、変動所得の損失や被災事業用資産の損失から生じた純損失であれば、青色申告でなくても繰り越せます(政令で定めるものに限ります)。[1]
赤字が出た年に青色申告書を出していても、翌年以後の確定申告書を出さなければ、その赤字は使えません。
純損失の金額が生じた年分の所得税につき確定申告書を提出し、かつ、それぞれその後において連続して確定申告書を提出している場合に限り、適用する。[1]
訳すと、こうなります。純損失が出た年分の確定申告書を出し、その後も続けて確定申告書を出している場合だけ、繰越控除を使えます。[1]
こうすればいい
| 場面 | 考え方 |
|---|---|
| 法人 | 繰り越せるのは10年です。中小法人等以外の法人は、引ける額がその事業年度の所得金額の50%までです。中小法人等からは、100%子法人等と大通算法人が除かれます。 |
| 個人の青色申告 | 繰り越せるのは3年です。赤字が出た年の翌年から3年間、確定申告書を続けて出してください。 |
| 前年へ戻す方法 | 個人は、前年も青色申告なら繰戻しを選べます。法人にも欠損金の繰戻しによる還付があります(中小企業者等に限ります)。どちらが得かは、顧問の税理士に相談してください。 |
| 迷ったら | 顧問の税理士に相談してください。 |
まとめ
「法人で赤字が出ても青色申告であれば10年相殺できる」は、条件つきホントです。法人の赤字(欠損金)を翌年以後10年間繰り越して、その年の所得から差し引く仕組みはあります。ただし、使うには条件があります。
- 法人は10年です。各事業年度開始の日前10年以内に開始した事業年度の欠損金を、損金に算入できます[4][6]。
- 使うには、赤字が出た事業年度の確定申告書を青色申告書で出し、その後も毎年確定申告書を出し続け、帳簿書類を保存していることが条件です[6]。
- 法人の10年は、平成30年4月1日以後に開始する事業年度からです。それより前の赤字は9年です[6]。
- 法人のうち中小法人等以外の法人は、その事業年度の所得金額の50%までしか引けません。中小法人等からは100%子法人等と大通算法人が除かれ、設立7年内の新設法人などはこの制限の対象外です[6]。
- 注意:赤字の会社を引き継いだとき(特定支配関係になってから5年以内に旧事業を全部やめて、その事業規模のおおむね5倍を超える借入れなどを行う場合)は、それまでの赤字を繰り越せなくなります[6]。
- 注意:個人の青色申告は3年です。この記事の「10年」は法人の話なので、個人事業主には当たりません[1][5]。
年数だけを覚えると、個人と法人を取り違えます。まず、自分がどちらの申告をするのかを確かめてください。
出典
- [1]所得税法第70条(純損失の繰越控除・e-Gov法令検索) 確認日:2026-10-18
- [2]所得税法第143条(青色申告・e-Gov法令検索) 確認日:2026-10-18
- [3]所得税法第140条(純損失の繰戻しによる還付の請求・e-Gov法令検索) 確認日:2026-10-18
- [4]法人税法第57条(欠損金の繰越し・e-Gov法令検索) 確認日:2026-10-18
- [5]No.2070 青色申告制度 — 国税庁タックスアンサー 確認日:2026-10-18
- [6]No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除 — 国税庁タックスアンサー 確認日:2026-10-18
- [7]No.5763 欠損金の繰戻しによる還付 — 国税庁タックスアンサー 確認日:2026-10-18
※ 本文は令和8年10月18日現在の法令・公式情報に基づきます。出典は、法令(e-Gov)・国税庁の公式資料を基本としています。公開後に訂正が生じた場合は、訂正記録をこの記事の末尾に掲載します(訂正ポリシー)。